歯が生え変わる時期、注意したい犬歯の方向

【はじめに】
【異所萌出とは】
【診断の時期と方法】
【レントゲンで疑わしい場合はどうすべきか】
【まとめ】
【さいごに】

【はじめに】
 一般的に、歯が生え変わる時期というのは6歳前後になります。生え変わり方としては、まずは下の前歯が生え変わったり、下の前歯の裏から大人の歯が生えてきてびっくりしたり、奥歯のさらに奥の歯茎がモコッと盛り上がって大人の歯が出てくる痛みに驚いたり・・・歯の生え変わりの仕方はさまざまあります。その後になったら、しばらく生え変わりは落ち着きますが、さらにそのあと9歳前後くらいには奥歯の生え変わりの時期に突入します。

 こうした生え変わりの時期に気を付けていただきたいのが、”大人の歯の構造に異常や不具合が無いかどうか”、ということです。異常や不具合というと、ちょっと不安な言葉になりますが、一般的にはいくつか注意点があります。その中でもここでは異所萌出、つまりちょっと違った生え方のトラブルについて解説していきます。

【異所萌出とは】
 異所萌出とは、その名前の通り異所=異常な場所に、萌出(生え出てくる)状態のことを言います。異所萌出が特に多く認められるのは上あごの3番めの歯、通称犬歯(けんし)、または糸切り歯(いときりば)、と呼ばれる歯です。歯の生え方に問題が起こりやすいのは「八重歯になる歯」と言われると分かりやすいかもしれません。
 犬歯以外にも、奥歯の生えてくる方向が問題ある場合もあります。ただ、やはり犬歯の方が前歯なのでそれなりに見た目に影響があるため気にされる方が多いです。その大きな問題となるのは、単純に犬歯が八重歯になるだけではなく、手前に存在する前歯に対して害を及ぼすトラブルに発展することもあるから大変なのです。

向かって右側(患者の左側)にある上あごの奥歯 大人の歯が生えるときに手前にある乳歯の方向に向かって乳歯を壊してしまう


9歳で(向かって)右上にある犬歯が手前の歯の根の方向に向かっている → 12y8mには引っ張って修正治療
9歳時点で問題が無さそうでも、それ以降でさらに方向が変わってしまうこともある → 1~2年ごとに確認はあると良い

【診断の時期と方法】
 診断の時期は、状態に異常が分かってから確認するのが一般的です。しかし、もしあらかじめ確認の意味も含めてレントゲン撮影をするなら「6歳」の時点で比較のために撮影して確認しておいた方がいいでしょう。この時期は生え変わりの時期、ということに加えてむし歯のチェックも必要です。というのは、生活リズムや生活環境の変化があるため、食生活にもそれまでと変わったことがあるかもしれません。そのため、レントゲンによる細やかな虫歯のチェックも必要と考えています。また、レントゲンを撮ることで成長による呼吸関連疾患(扁桃)の影響も確認することができます。

 当院では生え方のトラブル予防のためにしておくこととして、特に虫歯が多くなければ6歳前後にレントゲンを撮影することにしています。それは主には虫歯の早期発見や歯の形成に問題がないかを確認するということが目的です。また、歯の本数を確認することも撮影の目的として含まれ、そういった観察の中に歯が生えようとしている方向に問題がひそんでいる場合があるのです。このトラブルを「異所萌出」といいます。

 こうしたトラブルを未然に発見ができ、かつ、対処可能な年齢というのが6歳~9歳くらいの間なのです。

 そしてそのあとは定期健診で継続的にレントゲンを撮ることになりますが、できれば1~2年ごとくらいで撮影しておくことが望ましいと思われます。


 まず6歳くらいに撮影したときは歯の状態や正常な存在を確認します。この時期には、6歳臼歯の方向に問題がないかどうかについて記録しておきます。さらに、8歳~9歳くらいの時期には再撮影することで6歳のころの撮影データと比較します。もちろん先に示す写真の例のように、9歳時点ではじめて撮影することでも明確に判明することがありますが、それが本当に異所萌出の方向性を含む問題なのかどうかは、やはり比較することが重要になるのです。
 こうした継続的なレントゲン撮影によって状況を比較した結果、歯の萌出方向、つまり向かう先が横向きになってしまうことがあります(図示)。ただし、基本的にはこうした断面のレントゲンで分かるのですがレントゲンは断面を映すだけなので実際に隣の歯に対してダメージを与えているなどの詳細な状況は分かりません。(こうしたレントゲンは単純撮影レントゲンといいます)場合によっては、細かい小さなところを撮影した部分的レントゲンで確認することもあります。とはいえ、やはり心配な場合もありますので、状況によっては、あるいは将来的に治療を考えるのであれば、CTで実態を明確にしておく必要があると考えます。

【レントゲンで疑わしい場合はどうすべきか】
具体的な対策や治療方法としては、大きく3つあります。

〇そのままにしておく
 ・・・「どうするか考えた結果、結局何もしないことにする」というのも選択肢の一つです。この数十年ではレントゲンを撮るのが通常診察で一般的になり、画像もキレイに見えるため異所萌出が分かるようになってきました。しかし、昭和~平成初期くらいまではレントゲン撮影されることなく知らずに放置されることもありました。その結果、大人になってから(歯が抜けてから)正常に生えてこないことや生えてくる方向に問題がある状況に気づく人もいたわけです。
 生え変わりにおいては、特に痛みなどはないため何事もなくその時期は過ぎ去ります。そのため、結果として見た目や生え方に問題が起こったとしてもその後に対応すればいいだけの話になります。したがってこの段階では「将来大人の歯の位置や関係性にトラブルが起こるかも」程度に思っておいて棚上げしておくというのも一つの考え方です。もちろん、トラブルが起こらない可能性もありますし、起こる可能性もあります。

〇開窓術+牽引(歯を引っ張り出すだけの治療)
 ・・・隣の歯がダメージを受けていよう受けていまいが、今とりあえず何かできることとして開窓(粘膜をレーザーで切除して骨に穴をあけて歯をむき出しにすること)、そして牽引(歯にひっかけの器具を装着してゴムなどで埋まっているところから引っ張り出す)という選択があります。これは、歯そのものの存在を無事に存在させ続けるためだけに行う方法なので、引っ張り出した後は八重歯になる可能性が非常に高いです。とはいえ、八重歯になったとしても歯そのものはとりあえず標準的な本数として生えて存在させることはできる、というものです。そもそも、このような異所萌出や八重歯になることについては、顎の歪み自体に原因があると考えられるわけです(顎顔面口腔育成研究会サイト参照)。根本的な解決にはならないかもしれませんが、放置するわけでもなく、矯正するわけでももないという妥協案といったところです。
 なお、開窓術というものは一部保険適応になりますが、牽引するとなるとその施術は矯正治療に含まれるため健康保険は適応にはなりません。

〇開窓術+牽引+矯正(歯を引っ張り出して並べる治療)
 ・・・そもそも歯の生えてくる方向に問題が起こることは、顎の発育状態や歯並びの問題が影響しているからです。ということは、そもそもの問題解決のために矯正治療またはそれに準じた治療を進める選択になります。ただ、その前にトラブルになりかねない歯を骨の中から掘り出して(開窓)引っ張り出すこと(牽引)で、取り急ぎトラブルを防ぎます。そして、そのままではまず歯は整列しないため、開窓+牽引したうえで歯を並べる(矯正)必要があります。
 つまりこれは包括的な全体の治療としての選択肢になります。
 なお、矯正治療は保険外診療になります。当院では矯正治療の場合は「顎顔面口腔育成治療」という概念のもとで診査診断・治療を行っています。詳しくは顎の発育説明会で説明をしていますので受付またはスタッフまでお尋ねください。

【まとめ】
 歯の生え変わりの時期には、異所萌出といって歯の生えてくる方向に異常があることがある
 異所萌出には歯並びだけではなく、隣の歯に悪影響を与えることがあるから定期的にレントゲンで診査が必要
 治療には開窓・牽引・矯正・放置といった考え方があり、保護者としてどう考えるか想定しておくことが大切