むし歯治療の考え方 ~もし子どもの歯の治療をすることになった場合~

【はじめに】
【着色と初期虫歯の判別】
【むし歯リスクの高さと治療の判断】
【シーラントと予防的治療】
【深い虫歯治療と神経に至る治療】
【永久歯への影響】
【さいごに】

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【はじめに】
私たち歯科医療従事者はむし歯を予防したいと考えています。しかしそれ以上に子どもさんを持つ親御さんはもっとむし歯にならないようにしたいと願っていることでしょう。

子供の虫歯は食生活習慣と密接に関係があります。特に歯磨きをしっかりしていたとしても、食生活が乱れていたり、ダラダラ食べる習慣があったりしたら虫歯になってしまうものです(詳しくは院内でお伝えしています)。
むし歯を予防するためにはいくつかの条件を守ることが必須です。とはいえ、普段の生活の中で行き届かないところがあったり、子ども任せにしてしまったりすることで、むし歯を作ってしまうこともあるかもしれません。

そんな中で、一般的にむし歯治療というと「削って詰め物をする」、というイメージがあると思います。それ自体は間違いではありません。
ところが、その治療の幅は、ごく小さな初期むし歯の治療から、重度むし歯の治療まで、大きな差があります。



今回、このむし歯治療に対してどのようにわれわれプロが認識をして判別し、その対応をしているのか解説したいと思います。

【着色と初期虫歯の判別】
むし歯がごく初期の状態である場合は、時に着色と勘違いされることがあります。
決定的に違うのは、「着色」は茶色く色が着いているのに対して、実質的にむし歯になっている「初期虫歯」の場合は歯そのものが白く濁っているものです。

このように、歯の溝に着色がついてしまったものについては判別が紛らわしく、たとえば学校歯科検診でも虫歯と判別されにくい場合があります。

つまり、
〇着色・・・歯が実質的に健全な状態で色が着いているもの
〇初期虫歯・・・実質的な歯の崩れが見始められて白く濁ったような状態のもの
ということになります。

そもそもむし歯になりやすいのは、基本的には歯と歯の間、接している部分が多いものです。
歯の噛む面にある溝が深いところに発生することもありますが、リスクの高さでいえば、「歯の隣接面>歯の面の溝」となります。



ただし、6歳臼歯の場合、歯の横の溝が深く、そこから初期虫歯になってしまうこともあります。これは「歯の溝の深さ」という構造の問題が大きいです。したがって、構造自体を変更することは自然に変わるとは考えられませんので、これが進行したむし歯になるかどうかは、生活習慣をベースにしたむし歯リスクそのものが大きく影響してます。<予防処置についてはこちらも参照:歯の生え変わる時期、注意したいエナメル質形成不全

【むし歯リスクの高さと治療の判断】
そもそも虫歯になりやすいかどうかは、甘いものを食べる習慣があるかどうか、ダラダラ食べるような規則正しくない食習慣があるかどうか、ということに大きく影響を受けます。これらについてはお口の中の酸性度がどのように変化するか、ということで解説されていることがありますので、検索してみてください。

さて、当院ではそういったむし歯リスクがどれくらいなのか総合的に判断して、治療が必要と判断された場合は治療するようになります。
たとえば、
〇過去の治療歴があるか
〇ダラダラ食べるか
ということがあれば、むし歯リスクが高いかもしれない、と判断することがあります。

一方、
〇プラーク(歯垢)が少ない(清掃できている)
〇フッ化物(フッ素入り歯磨剤またはジェル)を使用している
ということであれば、むし歯リスクが高くない=むし歯になりにくい、と判断することがあります。

こういった判断から、むし歯が初期虫歯である場合は治療しないことがあります。なぜなら、小さい虫歯の場合は切削する方がより健康な歯質を削って失うことがあるからです。とはいえ、むし歯リスクが高い可能性がある場合は、逆に小さな初期虫歯のうちに治療することもあります。

【シーラントと予防的治療】
一般的には誰でも虫歯は予防したいものです。特にむし歯になりやすい場所というのは歯の溝ということから、予防的治療のひとつとして「シーラント」という方法がとられることがあります。これは特に初期虫歯になる前の段階であれば効果的と言われています。しかし、実はシーラントには注意しないと虫歯をひどくさせてしまう一面もあるので注意が必要です。(詳しくはこちら:「子どもにシーラントは必要ですか?」を参照してください)。
簡単に言えば、シーラントは歯の溝に人工的にプラスチックの詰め物をする方法になります。つまり、虫歯リスクの高い子どもの歯に、歯が生えてきたらすぐに歯の溝を埋めるという予防的処置をするもの=シーラントというものです。



一方、むし歯のリスクがそもそも高く、歯の溝が少しでも初期虫歯と判断されるような状態であれば、シーラントではなく、初期虫歯の部分を削って充填物を詰めるかどうか判断することが大切です。当院ではこれを予防的治療としています。


予防的治療は、初期虫歯と判断された歯を対象にしています。しかし、虫歯リスクが低い可能性がある場合は、なるべく削らずに食生活や清掃状況の改善、フッ化物を使った歯質強化の励行により経過観察とすることがあります。

つまり、
〇むし歯リスクが低く、歯の構造的に問題がない場合・・・経過観察
〇むし歯リスクが高いが、歯の構造的に問題がない場合・・・シーラント
〇むし歯リスクが低く、歯の構造的に問題がある場合・・・経過観察
〇むし歯リスクが高く、歯の構造的に問題がある場合・・・予防的治療
という判断の仕方になります。ただし、あくまで例えばという分け方をしていますので、必ずしもこの通りに判断するわけでもないということをご理解ください。

【深い虫歯治療と神経に至る治療】
すでに初期虫歯の段階を超えて普通に深い虫歯になっている場合は、虫歯の部分を削って白いプラスチックの材料で詰め物の治療を行います。こうした治療は、一般的にむし歯治療が必要な場合で、状況次第では神経を取る治療まで至らなければならない場合があります。

大変なのは、神経に至るほどの深い虫歯になってしまっている場合です。
ただし、虫歯治療にもむし歯リスクの状況によって治療方針を変えることがあります。
たとえば、かつては虫歯リスクが高かったものの、現在は食生活も安定していて清掃状況も悪くない、フッ化物の励行もできているような場合には、神経を保護するような薬を使った保護的処置とすることがあります。
一方、虫歯ができてしまった原因がそもそも虫歯のリスクが高い場合は、その後の痛みが大きくなる可能性もありますので積極的に神経を取る(歯を抜くわけではない)処置を行います。

【永久歯への影響】
乳歯の治療で神経を取った場合は、生え変わった永久歯に絶対的に不都合な影響が出るわけではありません(場合によりターナー歯というエナメル質の変色が起こることはあります)。

とはいえ、治療により削るわけですから、乳歯の形そのものが変わることはあります。それにより、たとえば歯の大きさ自体が微妙に変化したり噛み合わせが変わったりするようになります。
こうした場合、将来の歯並びには少なからず影響を与えることがわかっています。

乳歯の段階で、なるべく治療に至らないように心がけることは、やはり大切なことです。

【さいごに】
結局は、生えてきたばかりの永久歯への予防処置でも、形態構造上の問題があった場合の予防的治療でも、その治療に対する背景にあるものは、いかにむし歯リスクがある/ない生活が送れているかどうか、なのです。
むし歯の予防といえば、歯磨きとされている時代は終わりました。ただ漫然と歯磨きをするだけでは本質的にむし歯予防はできません。結局のところ、食生活週間が大切なのです。

【まとめ】
むし歯予防、むし歯リスクを下げるためには、歯磨きよりも食習慣(飲み物を含む)が大切
発症しない虫歯はリスク低いので、歯の構造によってはシーラント、予防的治療、経過観察という選択肢から予防する
食習慣が第一に大切であるが、フッ化物を使うことでより予防効果が得られます