子どもの滑舌(かつぜつ)、しゃべり方、気になりますか?

【はじめに】
【滑舌が気になる原因】
【対処法】
【さいごに】

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【はじめに】
赤ちゃんのころは生後3か月から半年くらいの間から喃語(なんご)と言われる「あー、うー」や「あぶ、あぶ」といった喉(のど)や唇、舌(べろ)を使った発語が見られるようになります。正確には一音からなる「クーイング」が派生して、二音を組み合わせて発音していく喃語が成り立っていくということになります。

さて、赤ちゃんのお口の使い方を相談に来られる方の中では、3歳から4歳くらいにかけてまわりのお友達に比べてうちの子はまだ赤ちゃんのしゃべり方みたいな名残りがある、いわゆる舌足らずなしゃべり方になっているのが気になる、という方がいます。もしかしたら、毎日一緒にいることで、それほど気にならない、という方もいるかもしれません。
5歳、6歳くらいになってもまだ赤ちゃん言葉のような、舌足らずのようなしゃべりかたになっていると感じる場合は少し注意してみる必要がありそうです。

(男児と女児でも発語の発達に違いがあるというデータもあります。個人差が大きいことなので、まずはそれを前提で考えていただければと思います。)

【滑舌が気になる原因】
滑舌が気になるというのは、単に発達の問題に原因があるのでしょうか?もちろん年齢的に発育状況を見守ることで改善することもあるので、発達に問題があるかどうかについては小児科での詳細な検査などが必要です。ただ、お口の中のある器官に問題の原因があるとしたらちょっと気にしてみるのもよいでしょう。
いくつか原因は考えられますが、結論から言えば、その原因の一つに「舌小帯」という部分があります。
舌小帯というのは、ベロの下の部分(裏?)にあるピンと張ったヒダのようなものです。
その舌小帯が短かったり強くこわばっていて伸びない状態のことを、「舌小帯短縮症」とか「舌小帯強直症」とか表現して病名として存在します。

この舌小帯の形成に至る原因は特定されているわけではありません。しいて言えば、一定の割合で遺伝的要素が多分に含まれていることを踏まえて、胎生期の発生時期に何らかの原因があると考えられます。ただし、「あくまで人体の体の変化、形態のことになりますので、それが必要以上に治療対象になるわけではない」と、ひかり歯科医院では考えています。
なぜなら、もし人体の形態が治療対象になるということで昔から問題になっていたとしたら(多指症などある一部の問題はあるにせよ)、例えば一重の人と二重の人では形態の違いがあるはずです。それは見た目として美容整形をすることはあってもそれが問題として手術対象になるわけではありません。

ただし、嚥下障害や、赤ちゃんの哺乳障害など一定の不具合が起こる問題は残っていますので、そういった場合の対処方法として舌小帯を切除することは検討してもよいと思います。なお、もちろん形態の問題ですからそれをまわりの環境変化の仕方、例えば食べ方、飲み込み方に対して姿勢を調整して工夫するなどで対応することは全然可能なのです。これを適応化といいます。
つまり、手足が生まれつきなかったとしても環境変化への対応で生活する術は獲得できるように、舌小帯に問題があるからといって必ずしも切除を推奨すべきものではありません。
(参考:舌小帯、上唇小帯について-当院ブログより-

【対処法】
滑舌が気になる子は、この舌小帯の小帯部分をレーザー等を使ってカットすることで、舌が伸びる(動きやすくなる)ようになります。しかし、この「動きやすく」するには条件があって、事前にベロの動きをトレーニングする必要があるのです。なぜなら、それまでの生活の中でつちかってきたベロの動き方を変えなければならない、カットした後の生活で使うベロの動きはまったく違うものになる、という前提があるので、それに見合った動き方をあらかじめシミュレーションして動けるようにしておかなければ、また元に戻ってしまうという報告が多数出ているからです。

実際の処置の様子は検索すれば結構ヒットしてくると思いますのでこちらでは省略します。
このような舌小帯短縮症に対する処置は、時代とともに流行り廃りがありました。一部では、生まれたばかりの赤ちゃんに喉頭蓋の偏位があるということで、ほとんどの場合で切除するということも行われています。しかし、やはりその考え方に対しても、「いやいやすべての赤ちゃんというのはやりすぎではないか?周りの発育環境づくりを第一にすべきでしょう!」という考え方もあるため、一概に一般化するということもなかったわけです。

対処方法としてカットすることも一つの選択肢ですが、赤ちゃんが生まれ、哺乳に問題がある→舌小帯、という考え方ではなく、まずは
①先天的に形態の問題があり、形態修正という目的のもとに処置が必要かどうか?
②機能的な改善が困難であり、それが将来的な問題の延長(滑舌の問題など)が想定されるか?
③改善の方法を探ることで、外科的処置を回避することを目標としてトレーニングや環境改善に取り組むか?
というようなアプローチが必要だと考えます。

【さいごに】
ここでは舌小帯に注目して書きました。
ただ、そこには形態的問題と機能的問題があります。それぞれ発達と発育のもとに発生する問題なので、細かいところまではお伝えすることが難しいものです。
ただ、現在、これを読まれている保護者の方が、子どもさんに対してどのように考えるのか?出生から現在までをよく振り返ってみて、さらに将来的な見通しをどのようにつけるのか?によって現状すべきことを考えていくことが大切です。
情報がたくさんある中で、「これ」が問題だから「これをする」という1対1対応の答えを早急に出すべきではないでしょう。
むしろ、例えば舌小帯の問題は顎の発育や呼吸(睡眠時無呼吸や子どもの低呼吸など)の問題と関連性が深く認められています。そのため、形態的問題や機能的問題と生活背景をしっかり絡めて相談していただければ、ひかり歯科医院でも個人個人でどのように対応すべきか、という部分でアドバイスができるのではと思います。
(参考:舌小帯、上唇小帯について-当院ブログより-

【まとめ】
舌小帯にみられる滑舌の問題について
①先天的に形態の問題があり、形態修正という目的のもとに処置が必要かどうか?
②機能的な改善が困難であり、それが将来的な問題の延長(滑舌の問題など)が想定されるか?
③改善の方法を探ることで、外科的処置を回避することを目標としてトレーニングや環境改善に取り組むか?

(文責 ひかり歯科医院 院長 益子正範)