歯固め・・・歯が生えてくる生後半年くらいから知ってほしいこと

【はじめに】
【歯がためとは】
【”舌の発育”と”お口の使い方”】
【さいごに】

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【はじめに】
 赤ちゃんの発達の中で、ハンドリガードというものがあります。これは生後数か月で、身の回りにあるものを認識して目で追ったり口に”それ”を運んで確かめたりする行為をいいます。具体的には、自分自身の手を目で確認して、それを口に持っていくことがその始まりとして知られています。

(西松屋 子育て応援サイト より)

こういった発達の一過程で見られるような行為は、それぞれに意味があります。そして、それを繰り返し行うことにまさに意味があり、ひとつひとつはゆっくりであったとしても連携して協調される動きに昇華されていった場合、動きとして生活に必要な意味をもった動きになります。こうした指しゃぶりからはじまる、「指舐め」、「おもちゃ舐め」、「歯固め」などは積極的に推奨したいものなのです。


たとえば、食事のときに手づかみで食べたいと思ったとき、食べ物を認知することが必要です。その後、食べ物をつかんで口に運びます。そして口を開けて口の中に入れる…こうしたなんてことない動きですが、それぞれの動きを繰り返して行うことがとても大切なのです。わたしたち大人も、自転車に初めて乗ったとき、最初からうまく補助輪無しで乗れることなんてほとんど無かったと思います。ヒトのからだの使い方は、ゆっくり、小さなことを積み重ねて、それらの細かい動作を強調させて何度も何度も繰り返し行うことで身につけることができるのです。

先ほどの例にあった、手づかみ食べにもありますが、「ものを食べる」ということも、赤ちゃんにとってはとても大変なことです。でも生活のうえでは非常に大切なことでもあります。そんな中で、ものを食べるためにはお口の使い方もしっかり身に着けてもらいたいことの一つです。「しっかり身に着ける」ということは、必ずしも理想的な(生理学に載っているような教科書的な)ことではありません。私は、あくまでもわたしたちの生活において、事故のないように、楽しい食事ができるように、みんなが幸せを感じられるように、その食べることにおいて決してマイナスなイメージが生まれないように身につけておけるお口の使い方ができるようにしてもらえたら、と思っています。

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【歯固めとは】
”食べる”ということは、どうしても”いかに噛むか?”ということに注目されがちです。
そこで、昔から歯固め石を使った「お食い初め」というイベントも行われてきました。これは食べることに困らないようになってほしい、という願いが込められた行事であることはよく知られています。

こういった行事自体は、あくまで昔から伝わる伝承ごとではありますが、生後100日後くらいから歯が生え始めてくるので「そういう時期ですね、きちんとそれを意識しておきましょう」、という意味ではいいイベントだと思います。一方、それが”歯を固くする”といったものではないということも覚えておいた方がいいと思います。厳密にいえば科学的に根拠となるものではない、ということです。こういったイメージとして、歯が固くなるという非科学的な一面もあって、それで将来的に害になってしまうとしたら、それはある意味では残念なことです。


赤ちゃんにとって、歯が固くなるための願いは一般的に良いことですが、本質的なことで言えば”飲み込む”ということができて、初めて”食べる”ということに連携できるのです。確かに”歯固め”という言葉の通り、歯が固くなってくれてむし歯になりにくいようになってくれることを期待することは誰もが願うことです。しかしながら、この時期、この行為自体で大切な目的とすることは、「しっかり食べられること」、つまり、経済的なことやむし歯に関することではなく、”安全に食事を遂行できること”ということになるわけです。

こうした見方は歯科医師視点からの考え方になってしまうため、どうしても堅苦しくなってしまうかもしれません。とはいえ、それがイメージとして、”歯固め→喉固め”といったことが目的になってくれる方が望ましいと思います。


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【”舌の発育”と”お口の使い方”】
赤ちゃんは、生まれてすぐのころから本能的に使える筋肉があります。それは舌です。
この10年ほどの間に、私たち歯科医療者が舌をとても大切に診ているようになりました。そしてさまざまな研究から、舌と全身のつながりも複雑かつ深く関係していることも分かってきました。

赤ちゃんの頃からはじまる舌の発育は、その後のお乳の飲み方から離乳食、そして固形食に関連して成長していきます。そしてその中で一貫して”ものを摂取する”という意味で使われ続ける機能には、”飲み込む”時の舌の働きが大きく影響しています。


今では、さまざまな媒体(雑誌やネットなど)により、赤ちゃんの時からはじまる一連の成長発育の中で、お口の使い方を正しく、適切に身に着けることが昨今の課題として認識されるようになってきました。というのも、子育ての中でおっぱいの飲み方やミルクの飲み方、離乳食の食べ方、食べさせ方など、実にいろいろな意見が専門家から出されているのです。一方では、それらのたくさんの情報が雑誌などに掲載され、実際に子育て中の保護者にとって情報に振り回されることが少なくありません。

その結果、ちょっと癖のある使い方を身に着けてしまったり、正しい舌の力の入れ具合が分からないまま成長してしまったり、看過できないほどの弊害が見られるようになってきた一面もあるのです。ただし、その問題自体が、単に食べ方などお口の使い方だけではなく、身体全体の成長、つまり成育環境(遊びや兄弟関係など)に左右されることも含まれることもありますので、一概にお口の問題だけに言及するものでもありません。

私たち歯科医利用者が望むことは、正しい舌の使い方が、口腔機能の発育とうまくバランスをとって全身発育につながってくれることです。そして、その結果として、健康で健やかな子どもたちの成長を導いてくれることを願っています。

その成長の中で、少しでも良い影響を与えてくれれば、ということで、歯固め(ここでいうのど固め)なども積極的に使って頂くことも提案の一つになるはずです。

舌機能は口腔機能(お口の使い方)の中に含まれるものではありますが、どちらが主でどちらが従という関係性にはありません。どちらかというと横につながって関連性を持っているようなイメージになります

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【さいごに】
歯固めといっても市場にあるものはたくさんあります。繰り返しになりますが、そもそも歯がための目的は、一般的には行事的な意味合いで、出てくる歯が丈夫になりますように…という一面と、お口の使い方をおっぱい飲みから固形食に向けて変えていく練習という一面があります。。
私たち歯科医療者側からみた場合、その背景にある歯がための真の狙いは、噛む動きの中で分泌される唾液を飲み込むこと、そしてその飲み込みの動きを支えてくれる”舌”の動きや働きを毎日繰り返し行って、「お口を使うことを日常化」するということ、そして、その結果、”安全に食事を遂行できること”なのです。

そこに”舌”がより大きく動かせるようなものがあれば、それがたとえおもちゃであったとしても、身近に置いてあるボールペンだったとしても、食事中にふと目に付いたキャベツの芯だったとしても、ペロペロと舐めながらガジガジかじっている様子があれば、それが”歯固め”として機能していることになります。

衛生的な面から考えると、そこらへんにあるものを口にすることはちょっと嫌かもしれません。
しかし、そこは環境を整えてあげたり、少し赤ちゃんの生態という面から妥協したり気持ちを譲ったりしてもいいかもしれません。

この時期に獲得できる舌の使い方、お口の機能を知っていただいて、事故の無い食事、すこやかで楽しい親子(家族)での食卓の風景が続けられるように、これから育っていく赤ちゃんにとって”舌”がしっかり動かせるようなお口の使い方を心掛けるようにしていきましょう。