離乳食相談 食べ与え、むし歯が移るからやらないなんて損!

【はじめに】
【よく聞かれる質問(食べてくれない)】
【よく聞かれる質問(モノを詰め込みすぎる)】
【虫歯菌が移ると伝えられ始めたのはいつ?だれが?】
【さいごに】
【まとめ】

【はじめに】
 歯科医院で、赤ちゃんの離乳食について質問されることがたまにあります。でもそれは、離乳食を食べた後の歯磨きの仕方や虫歯にならない食べモノについての質問であって、食べ物としての離乳食についての質問というのはあまりありません。おそらく、離乳食というのは自治体の栄養士さんからの指導や一般的な雑誌に載っている情報がベースになっているからで、歯科医院で聞くようなことではないと思われているようなのです。
 
 でも、ちょっとまっていただきたい。
 
 赤ちゃんにとって、どういったものを選んで、どのように食べるか、そしてその離乳食は「だれが食べたいのか」を基準に実際の「離乳食」というものを考えていただきたいのです。そしてそれは「食」にまつわることですから、当然歯科医院で相談していただきたいと思っています。つまり、一般的に言われている、またはよく聞かれている「離乳食」というものに対して、「楽しいものか、楽しくないものか」、「苦にならないか、苦になるか」、「ヒトとして自然か、だれかの固定観念か」といった基準があるのです。それを理解していただきたい、と思いましたので、ここで解説することにします。

【よく聞かれる質問(食べてくれない)】
 まず、歯科医院でよく相談を受ける内容については、「歯が生えてきたので磨き方を教えてほしい」ということです。これについては実地保健指導を行っていますのでご相談ください。

 一方、「食べてくれない」、「食べむら(食べたり食べなかったり)がある」、「飲み込んだ時にオエッとなる」、など、食べ方についての質問もあります。
 そもそも赤ちゃんにとって「食べる」とは、お腹がすいたら食べる、お腹がすいていなかったら食べない、という動物にとってのごくごく自然な欲求に従っているだけのことなのです。だから、食べてくれない時というのは「お腹がすいていない時」であるか、あるいはほかに何か興味のあることに気が引かれているからなのです。そしてそれは、食べむらがあるときも同じような状況になります。
 赤ちゃんはいろいろなものに興味があります。私たち大人でも夢中になっているものがあったら食事を忘れて没頭したり、時には食事を抜いてしまっても集中して時間が過ぎていくこともあると思います。赤ちゃんも、生を受けてからずっと世の中のものすべてが新鮮で興味深いものだらけなのです。
 食事というのは大人にとっては一般的な常識です。そこには朝ごはん、お昼ごはん、夕ご飯、おやつ、など、決まった時間に食べるもの、という固定観念があるのかもしれません。それに対して、食べ物を食べるという概念、時間という概念が無い赤ちゃんにとっては、それを押し付けられるのは耐え難いものです。したがって、食べてくれない、食べむらがある、というのはお腹がすいていないから、ということが背景にありますので、単純に考えればお腹がすく条件のときに食べさせてあげれば解決するということになります。もちろん、体調が悪くて食べてくれない時もありますので、そういったときに体調の具合を感じ取ってあげる管理も前提として必要になりますので注意しておいてください。

【よく聞かれる質問(モノを詰め込みすぎる)】
 お口いっぱいにほおばったときに飲み込もうとできずオエッとなるのは、一度に食べ物をたくさんお口に詰め込んだ場合と、摂食機能の問題がある場合とがあります。
 一気に詰め込んだ場合はそれなりにオエッとなりますので、おそらく喉に詰まってしまわないか心配というところでしょう。これは絞扼(こうやく)反射、嘔吐(おうと)反射といって、原始反射のようにもともと危険を回避するために備わっている能力です。そのため、これ以上はお口に詰め込んだら危険ですよ!という信号とも言えます。
 もともと赤ちゃんはおっぱいを飲んでいた時期にしっかり「ゴックン」する練習を繰り返し行ってきたはずです。そこで「ゴックン」する力が備わっていれば、もしオエッとなることがあったとしてもきちんと危機回避できるはずです。その危機回避することを何度か繰り返しているうちに自分自身の一口サイズを認識するようになって、大きなものを自分から避けるようになったり細かくちぎるようになったりしていくのです。それに対しては、場合によっては保護者が”噛み砕いて細かくしてあげる”のも良いでしょう。つまり、からだの発育プロセスでは、ゴックンできる身体の条件がベースにあって、次に固形物を咀嚼・嚥下するという次のステップに移っていくのです。
 この「噛み砕いて」というのは「食べ与え」とも言えますが、この「食べ与え」には問題があるような情報も多く見られ、むしろ食べ与えはよくないというような情報が一般的です。これについては次の項目(虫歯菌が移ると伝えられ始めたのはいつ?だれが?)で詳しくお伝えします。

 摂食機能の問題としては、お口の大きさ、顎の発育自体に問題があってオエッとなってしまうことがまれにあります。発育の問題であっても、ある程度月齢が進んでいけば解決されることもあります。しかし、舌の感覚発育の問題がある場合は、なかなか解決が難しいことがあります。舌の感覚発育というと少し難しく感じるかもしれませんが、赤ちゃんだけの問題ではありません。通常、舌の上を触っただけではオエッとならないものです。でも舌の奥に指を突っ込むとオエッとなることが分かります。これが絞扼反射・嘔吐反射です。この反射が起こるような状況というのが、感覚的に舌の奥に物が触れるイメージを持ってしまうこと=感覚発育の問題があるということなのです。
 これには少しずつ脱感作といってトレーニングが必要なことがあります。これは、発育の問題や構造、口腔機能の問題になる場合がありますので、詳しくは歯科医院で相談していただくか専門の施設を受診していただくことが良いと思われます。

【虫歯菌が移ると伝えられ始めたのはいつ?だれが?】
 さて、先の項目ではお口に食べ物をたくさん詰め込んだときにオエッとなるので、細かくしたら大丈夫ということをお伝えしました。これは何も細かく刻んでやわらかく調理したもの、小さくちぎったものを離乳食として与えましょう、ということではありません。
 そもそも細かくしたものや赤ちゃんだけ特別に作ったものを離乳食という考え方をしたのは昭和以降の近現代の常識であって、長い人類の歴史上では「離乳食=保護者が噛み砕いて飲み込めるサイズにしてあげて与えるモノ」という考えだったのです。離乳食自体が昭和以降ということですから、もしかすると今のおじいちゃんおばあちゃん世代にとっては「離乳食=うらごししたり細かく刻んだりした噛まなくても食べられるモノ」という考え方がすっかり定着しているかもしれません。もちろんその世代に育てられた親世代の方にとっても同じことが言えます。しかし、さらに前の世代にさかのぼり、ひいおじいちゃんひいおばあちゃんくらいの世代になると、おそらく赤ちゃんのためにせっせと特別な食事をこしらえるというのはあまり無かったのではないでしょうか?

 この離乳食(小刻み食)が離乳食(食べ与え食)を駆逐してしまった原因には、私たち歯科関係者による「虫歯菌が移るから食べ与えはしてはいけない」という間違った伝え方があったと考えられます。たとえば、ネットで離乳食と調べれば、虫歯菌が移るから食べ与えをさせないで、と伝えている歯科医院も出てくるかもしれません。または歯科医院だけではなく保健所などでも、離乳食について相談されたとき、虫歯菌が移るから食べ与えはダメ、と指導を受けることがあるかもしれません。しかしそれは間違った解釈による情報なのです。

 そもそも、虫歯菌というのはミュータンス菌(代表名・略称)と言われるものです。これは常在菌です。常在菌ということは皮膚にあるブドウ球菌などと同じで誰にでも同じように存在しているものです。だから、移るものはどうしたって移るし、移ることが正常な自然の摂理なのでそれに抵抗すること自体が無駄なことです。したがって、虫歯菌が移る移らないというのはまったく意味のない議論になってしまうのです。
 この移るか移らないかを検証した論文(根拠)となるものは1975年にロチェスター大学(ニューヨーク州)のBerkowitz RJ博士により出されています。そこから日本をはじめ世界中で追随する論文が出されました。しかし、どれも虫歯菌が移ることは証明されても、だからといって虫歯が「発症」するという結論には至っていません。
 つまり、保護者からの食べ与えをすることは動物として自然なことであって、もちろん菌も移りますが、それが害になることでは無い、ということなのです。当然、お箸の使い分けもする必要はありません。

【食べ与えのメリット】
 では、食べ与えをすることに害がないのであればメリットはあるのでしょうか。
 これについては、むしろ食べ与えをすることにより、アレルギーが減った、アトピーの発症が抑えられた、という報告が出されています。近年ではそれに関するものが多数論文(根拠)として出されているので、むしろ食べ与えの方にメリットがある、とすらいえます。
 それもそのはずで、常在菌は自分たちの住処(すみか)である人間を守った方が自分たちにとってメリットがあるからであって、よそから侵入してきた他の菌やウイルスに対して住処を守るような防御機能を働かせてくれることすらあるのです。だから虫歯菌自体も悪者ではなく、実は私たちの体を外敵から守ってくれる作用をしてくれることがあるということなのです。

 実は、虫歯菌が悪者になっているのは私たちが甘いものを取りすぎているからなのです。これはどういうことかというと、虫歯菌にとって大好物は甘いもの(砂糖入りのもの)です。虫歯菌はこの甘いものを食べてウンチを出します。そのウンチが「酸」、つまり歯を溶かす原因となるものなのです。当然、食べれば食べるほどウンチは出ますので、お口の中には虫歯菌のウンチだらけになってしまいます。それに対して、私たちは歯磨きをしたりうがいをしたりして、きれいにお掃除をしています。だからお口の中はウンチだらけにはならず、キレイに保てているはずなのです。公衆トイレが汚れていたら嫌ですが、キレイな状態だったら気持ちよく使えるのと同じようなイメージですね。


【さいごに】
 ウンチの話はたとえ話ですが、このようにきれいな状態を保つことはとても大切です。保護者のお口のケアがしっかりできていることで、子どもの虫歯の発症が抑えられるということも証明されています。これはもしかしたら保護者の意識の高さがそうさせているのかもしれません。
 とはいえ、ここでお伝えしたいポイントとしては、食べ与えは悪くない、むしろメリットが大きい、そして食べ与えをするのにせめて保護者のお口のケアはしておきましょう、ということです。
 ちなみに、そうはいってもおじいちゃんおばあちゃんの食べ与えは抵抗が・・・という(心の)声も聞こえます。それはある程度保護者の方の裁量にゆだねますが、気にならない程度であれば容認してもいいと思いますし、気になるのであればさせないということでもいいと思います。育てているのは「現在子育てしている方」であって、周りの人は協力者ではあっても責任を持つ者というわけではありません。せめてお口のケアをしっかりしているかどうかは気にしてもらいたいとは思います。

 さて、離乳食については実にいろいろな情報があふれています。しかし、雑誌に書かれている内容は同じようなものが多く、二番煎じであることが多いものです。もしそれが間違った伝え方から引用したものだとしたら、結局間違った情報や考え方を広めてしまうことになってしまいます。離乳食というものは、特別な食事ではありません。離乳食は親と同じようなものを、時に薄味にするなどの工夫はしても別に作る、別のお皿に盛る、ということは必要ないのです。ただ、もちろんどうしても食べ与えさせるのは抵抗があるということであれば、自分の信じるようにしても構わないと思います。子育てに不正解はありません。でも、もし離乳食に大変さを感じているのであれば、同じものを少し噛み砕いて食べやすく飲み込みやすくしてあげて、食べさせてあげるのも試してみてもいいと思います。それが人間本来の姿だからです。

 とにかく、離乳食が「楽に」、「楽しく」、「人間らしく本来のものとして」赤ちゃんに与えてあげられることが一番だと思います。

【まとめ】
離乳食は、保護者が食べるものを少し噛み砕いて食べやすくしたものを食べ与えるのが自然
食べ与えをした方がアトピーやアレルギーの発症を抑えるメリットがあり、お箸やお皿を分ける必要もない
虫歯菌は本来は悪者ではないが、悪者にしてしまうのは人間の食生活が原因