知らないと後悔する? 「過剰歯」と「先天欠損」・・・過剰歯について

<もくじ>
・はじめに
・過剰歯
・対処法
・まとめ


【はじめに】
 当院では、6歳を目安にお口の中を全体的に確認するレントゲン撮影をお勧めしています。その理由は虫歯のチェックもしておきたいところではありますが、それ以外にもこの時期にしかできない、この時期だからこそ絶対に必要不可欠な、非常に大切な目的があります。

 それが「永久歯の数の確認」です。

 永久歯の確認というと、そんなのレントゲンで見なくてもわかるんじゃないか?と思われるかもしれません。確かに見た目だけで生えてきた永久歯を見れば歯の本数については一目瞭然です。しかしながら、歯の本数として、普通より歯が多かったり、逆に少なかったりしたらどうでしょう?例えば(あくまでたとえですが)生まれてきたわが子の指が一本多かったり(多指症)、逆に少なかったり、もちろんそれはそれで生活に支障がないようにすることも手術により可能かと思いますが、それが問題であるようなら標準的な形態にしてあげたいと思うことが一般的で、将来に向けて何等かの問題の芽を残さないことになります。
 歯医者さんで診断されるこういった歯の数の問題の場合というのは、”歯=硬組織”といって皮膚や内臓とは違っているため、そのほとんどがレントゲン撮影でしか分からないものです。実際、日本小児歯科学会ではこのような問題が起こり得ることが分かっているため、6歳くらいを目安にレントゲンで撮影し、確認することを推奨しているのです。

 このように、この時期に「過剰歯」や「先天欠損」という、ごくまれにですが確かに”将来問題として残りそうなこと”が隠されていることがあるのです。

 参考1(東京都立小児総合医療センターより)
 https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/shouni//section/pdf/shounisika_kajyou.pdf
 参考2(公益財団法人 母子衛生研究会より)
 https://www.mcfh.or.jp/netsoudan/article.php?id=586

【過剰歯】

 「過剰歯」とは、その名の通り「過剰に存在する歯」のことです。ヒトの歯は親知らずを除けば全部で28本の永久歯が存在しています。そのうち、前歯に1本ないし2本、永久歯ができてくるときにオマケのような存在として小さな歯のような構造物が発生してくることがあります。これが過剰歯と呼ばれるものです。
 たとえば、ミカンを食べるときに皮をむいていくつかに分けたとき、間に小さな赤ちゃんミカンのようなものが存在していることがあると思います。モノの発生において、たまに小さな構造物が発生するときにオマケのようにできてしまう、というのが歯にも起こりえるというイメージだと分かりやすいかと思います。
(少し前に、ニュースでインドの子どもで526本もの過剰歯が摘出されたというニュースがありました。閲覧注意

<発生する確率、場所と将来起こりえる問題>
 日本口腔科学会による報告では、約1.5%の確率で出現すると言われています。つまり、50人から100人に一人の割合で発生していることになります。小学生のひとつの学年が5クラスあれば、学年に1人は存在しているという計算になりますね。
 その発生場所は、ほとんどの場合は上の前歯に発生するようです。また、この報告によれば、過剰歯がそのまま放置されることにより「正中離開」、つまり前歯のスキ間が開いたままの状態になるということも将来的に起こりえる問題として報告されています。もちろん、早期に抜去するという対処を行えば自然な状態になることも考えられますので、生え変わりの時期に差し掛かったら一度検診でレントゲン撮影されることをお勧めしています。

【対処法】
 では実際に6歳前後に確認させていただくレントゲンで過剰歯の存在が分かったらどうするか、ということになりますが、ここではひかり歯科医院での対応の仕方について解説しておきます。
 まず、過剰歯が確認されたら、治療計画を立てることになります。具体的にはおおむね以下の流れになります。

 ①レントゲン撮影で状態の確認(状況の説明)
 ②抜歯の術式とスケジュールの説明
 ③CT撮影
 ④止血シーネ(マウスピース)の説明
 ⑤当日の小手術案内と前日の連絡について
 ⑥翌日の消毒
 ⑦一週間後の糸抜き
 ⑧1か月以内の状態確認とクリーニング

 ① レントゲン撮影で状態の確認(状況の説明)
 まず、改めて小さいレントゲンで、過剰歯そのものが確実に存在するか確認します。そこで、口の中に向かっているか、鼻の方に向かっているか、その方向性を具体的に、かつ詳細に確認します。
 これは、口の中に向かっているようであれば、少なくとも大人になる前にはいつか必ず出てくるであろうということもイメージしやすいと思います。もちろん放置することによってある程度の問題(隣在歯の歯並びやこれから生えてくるであろう大人の歯の生え方に関する問題)が起こることはあるものの、近い将来的にはいずれ取り除きたいものです。逆に、鼻の方に向かう方向性が確認されるようであれば、待っていても生える方向に生えてくるものでもありません。ほとんどの場合は顎の骨の中でひっそりと存在したままになることが多いようですが、実際に年間数例ではあるものの、鼻の方から過剰歯が出てしまって手術しなければならなくなったという報告があります。したがって、放置することはあまり得策ではない、ということが言えます。
 
 ②抜歯の術式とスケジュールの説明
 次に、術式の説明とスケジュールの確認をします。
 術式自体は一般的なものとしてネットで調べていただいても分かると思いますが、歯茎の中に埋まってしまっている場合がほとんどになりますから、歯茎を切開して中の骨を一部削って取り出すということになります。詳細は「東京都立小児総合医療センター」による参考1のサイトを見ていただけば確認できます。
 また、スケジュール調整が結構大変なようです。多くの場合は、子どもさんの夏休みや冬休み、春休みといった長期休暇中に済ませたい、というお考えになるようです。しかし、予約のとれるタイミングや旅行などがある場合でスムーズに進まないこともあります。大切なポイントは、過剰歯抜歯=小手術、ということで、小手術といえども手術は手術ということです。術後に何かあった場合に対応可能な時間帯で予約を取っていただくことが必要になります。つまり、平日の午前中が最も安全な時間帯になります。遅くとも午後の最初の予約時間にしていただくことが必要です。
 スケジュール調整においては、翌日の消毒、それと1週間後の糸抜きにも来ていただく必要があります。その後、経過を見させていただくため、1か月以内でクリーニングを併せて状態の確認を行います。
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 *よく「こちらで抜けるのですか?」という質問をお聞きしますが、ひかり歯科医院では小児外科手術とはいえ、特に注意が必要な場合(たとえばじっとしていられないなど)を除いてほとんどの場合、外来処置として対応可能としています。 
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 ここまでをまとめると、
  術前:レントゲン、CT、マウスピース準備(2~3回の来院)
  術後:手術当日、翌日消毒、1週間後糸抜き、1か月後経過確認(4回の来院)
 ということになります。
 
 なお、上記の流れは順調に進んでいた場合に限ります。もし、まだ年齢が小さい、あるいは歯医者さんの椅子で処置に恐怖心が強かったり麻酔をしたことが無い、などといった、処置以前の状態が認められていたら、まずは歯医者さんの器具を知ってもらうなどのトレーニングが必要になりますので、すぐに手術に進む、ということにもなり得ない場合があります。

 ③CT撮影の説明
 スケジュールが決まりましたら、術前までにCTを撮影することになります。このCTにより詳細な位置関係の把握と特別な問題が認められないか、確認することになります。CT撮影の機械は院内に整備されていますので、医院内で撮影可能です。ひかり歯科医院では診療放射線技師による撮影を行っています。
 かつてはCT撮影をしないで過剰歯抜歯を行うのが当然のようでしたが、現在はあらゆるトラブルを避けるために事前撮影は必要だと考えています。それこそ私が研修医の時代(今から20年くらい前)では、CT撮影して過剰歯を抜くということはあまり考えられていませんでした。ところが、実際に過剰歯が存在する場所というのが、上あごのベロ側の歯茎に埋まっている場合と、まれにですが唇側の歯茎に埋まっている場合とがあります。唇側の歯茎の方に埋まっている場合は、単純レントゲン=平面で見るレントゲンでは分からないのです。
 手術をするからには失敗をしないように準備をしておくのが絶対条件だと考えています。そのため、CTは当日までに必ず撮影しておいて、場所の確認をしておきます。もちろん、小児対象ということですので被ばく量も最小限に抑えられたレントゲン機器を使用しています。現在の歯科用CTでは一回の撮影でも飛行機で海外旅行する程度の自然被ばく量と同じと言われていますので、当院では問題はないものとして扱っています。

 ④止血シーネ(マウスピース)の説明
 止血シーネというと、専門用語になってしまうのであまりイメージがわかないかもしれません。止血シーネというのは、止血用のマウスピースのことを言います。
 なぜマウスピースが必要なのか、というと、術式上切開することが前提になります。歯茎を切開したあと、もちろん縫合して糸で縫うことになりますが、縫い目と縫い目の間には切開したあと完全にくっつくまでに数日程度、時間が必要です。そうすると、もし仮に固めの食べ物が当たってしまうと出血してしまうことがあります。実際に、数年前の経験ですが、術後3日目にポテトチップスを食べて、チップが縦に切開線にグサっと刺さってしまうことで後出血が起こったという事例がありました。当時はまさかそんなことがあり得るのかと思いましたが、「子どもは何をするか分からない」という前提で考えると、後々のトラブルを防ぐためにも必ず止血用マウスピースを使うように推奨することになりました。

(シーネ:ドイツ語で副木のこと。添えて圧迫圧接する器具一般を示します)

 ⑤当日の小手術案内と前日の連絡
 術式の内容については、簡単に言うと以下の流れです。
 ・・・麻酔する、切開する、歯茎を剥がす、骨を削る、過剰歯を抜く、歯茎を縫う、止血する
 となります。

 ここで示す「麻酔」が最重要になります。それ以降の流れについては、逆に言えば、麻酔さえクリアできればあとは粛々とこなすだけになります。小さいお子さんの場合は、この「麻酔」ができるかどうかがカギになります。たとえば、お家で手術のことを聞いてしまった場合はイメージを勝手に膨らませて恐怖心で満たされてしまうことになります。したがって、保護者の方には絶対に、「手術」ことを悟られてはいけません。もちろん声に出して話をすることも控えていただいた方がいいと思います。中にはに「自分のところでは子どもの意思を尊重しているのでわが子には全部伝えて納得してから行動するようにしているんです」というご家庭があります。それはそれで教育上大切なことなので分かります。でも医療においては違うということをご理解いただければ助かります。なぜなら、人生一桁しか生きていない人が、これから起こるであろう人体の変化について十分分かるというのは考えにくいことだからです。とはいえ、必ずしもそれを強要するわけでもありません。家庭の教育方針に介入することはありませんので、あくまで医療的処置上もっとも確率的に安全な取り扱いを推奨するということになりますので、ご了承いただければ幸いです。

 切開はメスを使います。ほとんどの場合はベロ側の歯茎の前歯部中央付近に存在していますので、一般的には左右の乳犬歯部の間を歯のラインに沿って切開することになります。
 次に歯茎を剝がします。これは剥離と言って、専用の器具を使って歯茎を剥がしていきます。この時には血の味がして子どもさんがパニックになるリスクがありますので、数秒程度でめくってしまいます。
 そして骨を削るところですが、子どもさんの骨はとても柔らかいので削るよりは器具でグリグリえぐる、という場合の方が多いかもしれません。必要に応じて歯医者さん用のドリルのような機械を使って削ります。
 いよいよ過剰歯を抜く、という段階で、子どもさんがぐずっていたり泣きはじめていたりしなければほぼ終わったようなものです。逆性(鼻の方に向かう状態)であると、抜くときの力でそのまま鼻の方に押し込まれるように移動してしまうことがありますが、それに注意をして抜去完了します。
 あとは切開した歯茎を縫って止血を待ちます。歯茎を縫う(縫合)ときは専用の針と糸を使います。この段階で、緊張の糸が切れて泣き出す子、すっかり寝入ってしまう子、さまざまです。この段階では通常の歯科治療と同じレベルの緊張感になりますのでもう安心できます。
 最後はマウスピースを装着して止血という状態にします。マウスピースは翌日までは装着しっぱなしにしておくことを推奨しています。その理由は先に述べましたが、歯磨きや食事の際も着けっぱなしで特に問題はありません。唯一、装着することで喉の奥にマウスピースが触れてしまいオエっと気持ち悪くなることがありますが、その場合は調整して装着できるようにします。なお、食事は念のため柔らかいものを中心とした献立にしていただくと安心です。とはいえ、子どもの回復力は非常に強いため、一日、感染に注意して食事に気を付け、止血用マウスピースを装着していただければ、次の日にはそれまでのような日常生活にすぐ戻れます。当日だけ、運動、衛生状態、食事内容に気を付けてください。

 ⑥翌日の消毒
 次の日に出血状態、切開した傷の状態などを確認します。と、同時に消毒をします。使用していただいたマウスピースは、止血状態が特に問題なければ外します。もし本人が使用継続可能であれば、歯磨きの時には外してもらって、それ以外の時間(食事の時を含む)は使用継続してもらいます。だいたい1週間後の糸抜きの時までが目安になります。状況次第ですが、以下のa)またはb)のように取り扱いをご説明することになります。

 a) 翌日消毒時点で問題なければマウスピース外す
 b) 少々心配であってマウスピースを継続使用してもよい、という場合は、1週間後まで歯磨き以外装着継続使用

 ⑦一週間後の糸抜き
 切開した後、糸で縫います(縫合)ので、その糸を抜き取る段階になります。だいたい目安は一週間後になりますが、必ずしも一週間後ぴったりでなくても大丈夫です。
 糸抜きの時は麻酔も必要ないものですが、抜糸用ハサミを使って糸抜きをします。必要以上に怖がらせないようにご家庭でも気を付けておいてください。
 この糸抜きのタイミングで、⑥の(b)により1週間継続使用していた場合は、使用終了となります。

 ⑧1か月以内の状態確認とクリーニング
 抜歯後、糸抜きの間まで、いろいろな不安や心配事があるかと思います。しっかり歯磨きができなかったかもしれません。ほとんどの場合で前歯に汚れがたまってしまったり、奥歯の方もあわせて磨けなかったり、状況の経過観察を含めて一度来院していただき、クリーニングを行います。
 この時までに何かトラブルがあったら、ご相談いただくようお願いします。 

【まとめ】
過剰歯は、一般的には6歳前後のレントゲン撮影によって発見されるため、撮影確認することをお勧め
もし過剰歯が認められたら、抜糸は小手術となるためスケジュールを確認調整する必要がある
年齢的に処置が可能かどうか、麻酔などにも恐怖心を抱かないことが前提になる