赤ちゃんの歯磨きについて

【はじめに】

 まだ歯がすべて生えそろっていない赤ちゃんでも赤ちゃんのうちから歯医者さんにきていただいて、主にお口の使い方やこれからの予防を含めたいろいろな情報を提供することができます。そんな赤ちゃん歯科を当院では行っていますが、普通に来られる方の多くで歯医者さんに相談があるのは「ハミガキ」についてです。
 もっともよく相談があるのは、だいたい生後半年くらいの時期です。少しだけ歯が生えてきた赤ちゃんはどのように歯磨きをすればよいのか、また、具体的にいつからはじめればよいのか、などです。今は色々な情報があってどのようにすればよいのか情報を選ぶのも大変です。
 歯科医院で相談に来られる方の中には、虫歯にさせたくないから赤ちゃんのうちからハミガキに慣れさせよう!みたいな感じでがっつり頑張ろうとする方から、「歯が生えてきたらどうすればいいでしょうか?」または「ハミガキはどうすればいいですか?」と、ざっくり相談したい!という方までさまざまです。
 歯医者さんで、このような相談をされるのは当然ですし、むしろ赤ちゃんのうちにしっかりと意識をもって相談されることは望ましいと思います。

【ハミガキ=歯ブラシではない】

 一般的には赤ちゃんのハミガキ、乳児から小さい幼児程度のハミガキの仕方として、寝転がって腕を保護者の足の下に敷いて抑えることで手が出ないようにして磨く、ということが知られています。これは一つの方法論としては正しいのでしょう。ただ、赤ちゃんや乳児にとってこうしたハミガキの仕方にみられるような目的は「歯を磨く」ことなのでしょうか。
 そこで、赤ちゃんのハミガキについて、結論から言えば「ハミガキ自体はしてもいいけど歯ブラシを使わなくてもよい」ということです。もちろんこれはあくまで当院での考え方になります。医院にはそれぞれの考え方があると思いますので、一つの考え方として参考にしてみてください。

 汚れを落とすなら、ガーゼで拭う程度でもできます。そもそもブラシで磨かなければならないような汚れや歯垢というものは歯ブラシで磨いたとしても落ちにくいはずですし、そのような食生活をしてしまうこと自体は考え直さなければならない生活習慣とも言えます。そこで、赤ちゃん(歯のない時期)にとってはガーゼで拭う程度にすることをハミガキとして、お口に刺激を与えてあげるマッサージのように考えるのはどうでしょうか?

 そもそも、ヒトは動物の中で哺乳類(おっぱいを飲む動物)に属する霊長類です。その中でも唇を使って食べ物を摂取することができる数少ない種とも言えます。ヒトは舌を巧みに使えるように進化してきた歴史があります。この口(唇や舌を含むお口の周り全体の総称として)という器官はとても繊細で敏感なのです。
 また、敏感ゆえに、発達期には常に刺激が必要です。その敏感なところを敏感なまま月齢を重ねてしまうと感覚過敏になってしまうことがあります。そのため、お口とその周りに対しては、よく触ったりマッサージしてあげることが大切になります。赤ちゃんにとって、ハミガキの時にこそお口を触ってあげる機会になります。


【赤ちゃんのうちは歯ブラシを使わなくてもよい3つの理由】

<適齢期(=真似をするとき)が来るから>
 赤ちゃんの、それこそ新生児期から乳児のうちはお口に指を入れたり自ら舐めたりすることは大歓迎の時期があります。しかしそれでも、いつのまにかハミガキされること、歯ブラシをお口に入れられることを嫌がってしまいます。
 これは「自分からお口に歯ブラシを持っていくこと」と、「だれかに歯ブラシを突っ込まれること」の違いです。ハミガキをしよう、と保護者が歯を磨いてあげようとすると逃げるのに、保護者が磨いている様子をみて自分もやると言い出すことも珍しくありません。それは、2歳を超えるころになると保護者の方たちがハミガキをしている様子を見て真似をしたがる現象からも分かります。
 そんな時、危険な状況をしっかり管理してあげるように注意しながら歯ブラシを持たせてあげます。そうして能動的に、自分から積極的に歯ブラシをもって口に入れ始めたときがハミガキの適齢期になる、と考えてあげるといいでしょう。そして仕上げ磨きも歯ブラシを使わなくても、お口をしっかりマッサージし続けてあげることが大切です。ついでに汚れを落とすというイメージがあれば問題ありません。
 虫歯に気を付けたい、という方もいるかもしれませんが、そもそも虫歯はハミガキよりも食生活習慣によって引き起こされるものなので、ハミガキで予防ということ自体を見直さなければならないでしょう。(詳しくは歯科医院で)

<そもそもハミガキはめんどくさいから>
 そもそも赤ちゃんはハミガキをいやがります。それ以上に遊びたいし、それ以上にやりたいことがあるのです。
 大人で言い換えれば「めんどくさい」になるのかもしれません。大人でも面倒くさがってササッと終わりにしてしまうひともいるくらいです。そもそもハミガキに結構な時間を費やすことが、必要だと思っていても、実際めんどくさいと思っている人も少なくないのではないでしょうか?
 歯と歯茎の間の部分だけを総面積で表すと大体手のひらと同じくらいになります。実際計測したものはありませんが、大皿一枚程度のようなイメージになると思います。食事の後、大皿を一枚洗うのには食器用洗剤をつけてササッと洗う・・・もちろんそれはいいと思います。しかし歯ブラシで大皿一枚を洗うとなると、ちょっと大変ですよね。その大皿と同じくらいの大きさのデコボコしたタイルを洗うとなると、ちょっと念入りに洗うことになります。さらに、その汚れは油汚れだったりカビの汚れだったり、つまりこびりついてしまう汚れだったらもっとしっかり洗うことになると思います。

 ハミガキをするにはそれ相当の時間が必要になる、ということがなんとなくイメージできるでしょうか。もちろん虫歯や歯周病の発生原理(省略)からすれば、一日に一回、しっかり磨けば大丈夫、というデータもあります。一日に3回ハミガキするというのは、歯磨き粉を宣伝するためのキャッチコピーから刷り込まれた思い込みだったりもしますが、食後に食べかすを取り除くという意味では正しいものとも言えます。だからと言って3回ハミガキをしなくてもいいわけではありませんし、3回適当に磨くよりは1回でもしっかり磨いた方が効果的というわけです。
 もっともここで言うハミガキについては大人の場合も想定しての説明になりますので、赤ちゃんの場合はそれをガーゼなど指で拭うことに置き換えることになります。

<ハミガキ=恐怖と感じることがあるから>
 私たちは自分の経験値で物事を考えがちです。それはそれまでの人生経験があるから、その経験にのっとって考えるといろいろなことがイメージできます。ところが、赤ちゃんにはすべてのものが初めてなのです。そんな赤ちゃんにとって、歯ブラシというものが何をするのか?どういうものなのか?そして大人たちに何をされるのか?未知の物体にほかならないのです。
 たとえば、自分より大きな大人が大きな棒のようなものを口の中に突っ込んでくる・・・そんなことがあったら、私たち大人でも「巨人が大きな棒をなぜか口の中に突っ込んで来たくなる」・・・ちょっと身構えてしまって緊張してしまいます。赤ちゃんや子どもさんだったらなおさらでしょう。
 また、ハミガキという行為の目的は、歯についた汚れ(=プラークと呼ばれるもの)を除去することです。食べかすなどはサッサッとこすればとれるのですが、この汚れを取るために多くの場合「ゴシゴシ」とこする作業を行います。この汚れを取り残してしまうことにより、歯石になってしまうことはあります。しかし乳歯期の赤ちゃんの場合は、歯石が原因となって歯周病を発症することはまずありません。構造的に歯周病にきわめてなりにくいからです。
 ただし、どうしても汚れが気になるという方にとってきれいにしてあげたいという気持ちも分かります。そういう時は、仕上げ磨きの「ポイント」があるのをご存じでしょうか?歯の噛む面は普段の食事などで食物繊維のような繊維性の食べ物によってそれ自体ゴシゴシ磨いているようなものなのです。したがって嚙む面には虫歯ができにくいという事実があります(場合によってはシーラントを推奨することもあります。シーラント参照)。それでも空間認識能力の未発達な子どもにとって磨くのが苦手な部位は、「上の歯列の外側」と「下の歯列の内側」です。このポイントに絞って仕上げ磨きをしてあげるとよいでしょう。詳しくは院内での指導を受けてみてください。まずは赤ちゃんにとって、お口の中に指を入れられる行為が恐怖と感じないような環境づくりを作ってあげたいものです。

 逆に、ハミガキが好きになってくれた場合にも注意しておいていただきたい点もあります。それは歯ブラシによる事故が少なくないということから、一人で咥えて遊ばないように注意してあげることが必要です。
 子どもの場合は、まだ空間認識能力が発達していません。実際、毎年数例は歯ブラシがのどに刺さってしまった事故の報告があります。念のため、こういったことに対する注意もしておいた方がいいでしょう。

【仕上げ磨きはいつまでか】
 少し月齢、年齢が上がって、もう赤ちゃんじゃなくなったからハミガキしてくれないわけではないが、仕上げ磨きはいつまで必要なのか?という相談もあります。基本的に自分で磨くのを任せる(仕上げ磨き必須)のが3歳4歳くらいから、そして仕上げ磨きで見てあげるのが12歳くらいと言われています。
 これについてひかり歯科医院では、大体「靴紐が結べるようになるくらい」という目安をお伝えしています。ちょっと変な具体例ですが、子供がうんちをした後に自分で自分のお尻が拭けるようになるのはいつぐらいでしょう?これはだいたい4歳~5歳くらいだといわれています。そのころから自分の見えないところ、自分自身の体のイメージが認識できるようになるということですね。そのころから自分の口の中もハミガキをさせてあげる必要があります。でも子供にまかせっきりにはせず、おそらくほとんどの保護者の方は仕上げ磨きをしてあげることだと思います。
 そして仕上げ磨きについては、だいたい自分で自分の靴紐が結べるくらいになる程度まで、つまり微細運動、細かい作業ができる年齢、ということ分かります。とはいえ、細かい作業ができて、自分自身のボディイメージができる、という条件がそろっていたとしても、実際それまで触れることがあまりなかったからだの一部はなかなか触ること、触られることに抵抗ないという状況にはなりません。12歳臼歯が生えてくる12歳くらいまではしっかり管理してあげたい時期です。

【まとめ】
歯磨きは、赤ちゃんのころからお口のマッサージ、触ってあげる、ということを第一にする
赤ちゃんが歯ブラシをいやがる理由を理解しながらも仕上げ磨きはポイントを押さえて行う
仕上げ磨きは12歳くらいまで行う