歯が凍(し)みる!知覚過敏?その歯の根元、エグれてませんか?

【はじめに】
【知覚過敏の3つの原因】
【対処法】
【結論】
【まとめ】

【はじめに】
 一般的に虫歯が疑われる場合、冷たいものが凍(し)みる、という症状に悩まされる場合が多いものです。もちろん虫歯の場合は、甘い物が凍(し)みる、噛むと痛い、などという症状も考えられます。
 一方、虫歯ではなくその歯の形態的に根元がエグられるようにすり減ってしまって、歯の中の組織がモロ出しになっている場合も、凍みる原因になり得るものです。その場合は、例えば虫歯と認識していなかったとしてもずいぶん前から、あるいは数年前からそういった凍みる症状がある、または徐々にではあっても感じることがある、ということがあります。中には、過去に凍みることは感じていたもののそこまで気にしていなかったものが、最近ひどくなった気がするということもあります。そういった場合には、過去に歯科医院で凍(し)み止めの薬を塗ってもらって治まったことがあるということが少なくありません。
 こういった現象は虫歯ではない場合、「知覚過敏」と診断されることがあります。しかしながら、「知覚過敏」というのは「現象」であって「病気の名前」ではありません。「知覚神経」が「過敏」になっているから、「知覚過敏」という状態なのです。したがって、病気ではないゆえに、生活習慣の中に原因があるはずです。

 ということは、こうした、いわゆる「知覚過敏」の症状がある場合は、
 ~なぜそうした症状が起こるのか?~
 といったことを知ることが、対応方法につながる近道になります。

 もちろん、症状がひどくなって生活習慣の改善や応急処置でも我慢できないほどの痛みになることもあります。その場合は適切な処置が必要になることも忘れないようにしてください。

【知覚過敏の3つの原因】
 さて、ここでいう「凍みる原因」としては、
①歯の根元部分が露出してえぐられた形態によること
②歯のエナメル質(最も固い表面組織)に目に見えないひび割れがあること
③歯に過度な力が加わって歯の根部分に炎症を起こしていること
が考えられます。

①歯の形態的な面で言うと、歯と歯茎のちょうど境目あたり(歯頸部と言う)の、歯の部分(歯の根元部分)がえぐれていることがあれば要注意ということです。

歯と歯茎の状態(歯の根元の部分を歯頚部といいます)

歯の根元部分がえぐれている状態 ここから歯の内部への刺激が浸透することで凍みる症状が起こります

 えぐれている、ということがどういった状況なのかと言うと、例えば、よく昔ばなしにあるようなシーンで木こりさんが斧で木を切る様子をイメージしてみてください。木の根本の部分に斧で切り込みを入れることで木が倒れることが分かります。この場合は、小さな力でコツコツと力を加えていくことで切り込みの形が作られていきます。では、歯の場合も同じように小さな力が加えられ続けるとどうなるでしょうか?

 はい、やはり切り込みの形が作られてしまうのです。

 また、歯に加えられる力は、いくつか考えられます。ひとつは、咬合力、つまり噛む力、噛み締める力、食いしばる力によるものです。その力により、歯のエナメル質という硬い組織にひび割れが起こり、少しずつ削り落ちていくことで歯の根元にえぐれる形をもたらすことになります。(この時、同時に②にある目に見えないほどの微細なひび割れが起こることによって冷たい刺激が中に通りやすくなって凍みる症状が起こりやすくなることがあります。)

 そして次に、歯ブラシによるブラッシング圧も考えられます。日常的な歯ブラシは本人が意識しなくても、もしかしたら過剰な力でゴシゴシ磨いているのかもしれません。歯ブラシそのものの硬さも影響します。歯ブラシには、硬め、普通、柔らかめ、といくつかの種類がありますが、一般的には普通の歯ブラシを使うと思います。ところが、特に硬めの歯ブラシによって、歯が徐々に削られてしまうこともあるのです。小さな力でも毎日コツコツ積み重ねられた力により硬い組織が変形するかのような現象です。

 とはいえ、こうした歯の根元のえぐれ形態というものは曲がりなりにも硬い歯という組織に対して起こるものです。そこに、現代食による酸蝕(さんしょく)という要素が加わることによって、より進行促進されてしまうことも考えなければなりません。

 つまり、酸性の傾向が強い(すっぱいものが多い)食生活、そもそも虫歯になりやすいような(甘いものが多い)食生活、そして日常的に食いしばりや歯ぎしりがある生活、ゴシゴシ削るように磨く歯磨きの習慣がある生活、といったいくつかの原因が複雑に絡まって、「凍みる」という知覚過敏現象を引き起こしているのです。

【それ以外】
 上記の①、②、③が知覚過敏の代表的な3大原因だとすれば、それ以外に考えられる「凍みる」原因としては”虫歯以外では歯根膜炎”というものがあります。
 ここで「虫歯以外では」という条件を書いたのは、虫歯でも歯根膜炎は起こるからです。歯根膜炎とはそもそも歯の根っこ部分(骨に埋もれている部分)の、歯と骨をつなげている膜部分(=歯根膜)に何らかの原因により炎症が起こることを言います。それ自体は、虫歯や歯周病により炎症が及ぶことがあります。
 しかし、例えば歯周病対策の極細毛の歯ブラシを使って歯磨きし過ぎで歯根膜までゴシゴシ痛めつけるように磨いた場合も歯根膜に炎症が起こります。この場合は、歯の根元がえぐれていないことが多いため、食いしばりや歯ぎしりと見分けにくいことがあります。

④歯の根元がえぐれているような外観的な構造崩壊が無い場合、一時的な痛みである可能性がある=歯根膜炎 

【小まとめ】

知覚過敏は状態名であり、病名ではない。
主な状態としては”歯の根元がえぐられた状態”になっていること。
その原因は
①食いしばりや歯ぎしり(過剰な力の継続的な負荷が歯の根元の細かいひび割れを引き起こす)
②歯ブラシのし過ぎ、強くこすりすぎ(ゴシゴシ横磨きに多く見られる)
③酸蝕症と言われる、食生活に起因するもの(汚れがたまりやすい部分に酸性成分が付着し続けることで脱灰(歯が壊れる)現象が起こる)

・・・①、②、③の複合作用によるもの:いずれにしても”生活習慣病”に近いものと言える

そして、治療されている歯の場合、詰め物の中がむし歯になっている可能性もあるためレントゲン診査が必要になります。当然ながら、もし外観的に、レントゲン上も問題ない場合、つまり物理的に確認できる範囲では問題ない場合は、目に見えない細かいひび割れ(→原因の②)、または一時的な過剰負荷による歯根膜炎の可能性がある(→原因の④)と考えられます。

【対処法】
 最後に、それぞれに対する対処法になりますが、基本的に体に害を与えない、介入しないことからおススメすることになります。

選択肢) 対処法 / 留意事項 / 予後予測
A)凍(し)み止めの薬を塗る / 一回で治まるとは限らない 2回3回、それ以上必要かもしれない / 月一通院で様子を見る

B)虫歯治療の材料、プラスチックの詰め物を覆うようにくっつける / 通常の虫歯治療と同じ 麻酔が必要なら麻酔する / くっつけた材料がはがれるリスクがある 材料の周辺が着色しやすくなる

C)マウスピースで歯ぎしりの過剰負荷を予防する / 異物感が強い場合がある 毎日の手入れが面倒くさい 歯は微妙なレベルで一生動き続けるので、合わなくなったら作り直しが必要 / 初期段階であれば効果あるが、ある程度進行した症状にはあまり効果がない 複数歯数に対するまとめての対応には効果的

D)日中の食いしばりであれば、普段の意識を少し変えてみる / まずは意識してみることを心がける ガイドラインでも行動変容としてきちんとした治療法として紹介されている / 無意識の行動には効果がない もっとも簡単な行動変容療法

 以上のA~Dのようになります。当然ながら、何かお勧めか?と聞かれることがあります。そもそもとして、この凍みるタイプの知覚過敏は生活習慣病の一つなので、結論としては以下のようになります。

【結論】
①まずはAの薬を塗る、と同時にDの歯ぎしり食いしばりを意識してみる、ということで応急処置と生活習慣改善にアプローチしてみるのが第一選択と考えられます。
②しかしながら、それで症状の落ち着きが見られない場合、BまたはCの対症療法を試みることに進むのが妥当だと考えられます。もちろん状態の重篤さによって、すぐにBやCの治療に進むべき場合もあります。そういった場合は、もし、自分で病態の認識が理解できているのであれば先にBやCの対症療法に進むことも問題ありません。

【まとめ】
歯が凍みる場合は、虫歯でなければ知覚過敏状態を疑う
知覚過敏は、歯の根元がえぐられた形態に問題があり、原因療法と対症療法がある
体に処置を加えない方法から、一つずつ対処していき、自身の体と生活習慣、行動に合った治療法を選択する