指しゃぶり・唇吸い・爪噛み 治る?治せる?どうすればよい?

 赤ちゃんから乳児期くらいの時期でよく相談があるのが指しゃぶりです。
 0歳から1歳くらいにかけて、赤ちゃん歯科外来を受診される方から指しゃぶりをしていることに対して不安があるという相談があります。また、1歳を過ぎて2歳くらいにかけても、同じように指しゃぶりをしていることへの相談があります。この年齢ではネット上でいろいろな情報がありますので不安を煽(あお)られてしまうのかもしれません。さらに2歳を超えて4歳ぐらいまで指しゃぶりをすることで、上の前歯が出っ張ってしまうことに気づいて相談に来られる方もいます。そして4歳を超えても指しゃぶりを続けていることで癖になってしまい、どうしたらいいのか?という相談もあります。

 この指しゃぶりに代表される赤ちゃん(乳児)の行為についてはいろいろな考え方があります。結論としては、0歳から1歳、もう少し年齢上がって2歳くらいまではやめさせる必要がなく、むしろ積極的にやってもらいましょう!ということになります。一方、3歳~4歳まで継続している指しゃぶりについては、生活背景の中で原因を見極め、やめさせる努力をする方針をとるか、そのまま見守る方針をとるか、大きく2つの選択肢から相談して方向性を決めていく必要があります。

 ○0歳~2歳・・・積極的に指しゃぶりしましょう
 ○3歳~4歳・・・辞められる環境を整える、絵本の読み聞かせなどのおススメ
 ○5歳~  ・・・辞めさせるかそのまま見守るか、の方向性を決める

 今回はその中で、ひかり歯科医院で考えている取り組み方をご案内します。

【指しゃぶりとは】
【唇吸い・爪噛みなどの背景】
【生理的指しゃぶりと癖】
【抱っこの効果、舐め舐め効果】
【4歳、5歳でも指しゃぶりが続いている場合】
【まとめ】

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【指しゃぶりとは】
 指しゃぶりは生後4か月ころから始まる行為と言われています。詳細は調べてみると出てくるので参照してみてください。(https://kotobank.jp/word/%E6%8C%87%E3%81%97%E3%82%83%E3%81%B6%E3%82%8A-145337)
 この行為は特徴的なこととして、お腹の中にいるころから指しゃぶりをしていること、生後しばらくは外界への接点として生理的な指しゃぶりが行われること、心理的な側面により長く続けられてしまうこと、癖として続いた場合は顎の発育や歯列への影響があること、などが言われるため、医療機関で相談されることが多々あります。また、この指しゃぶり以外にも同様の癖として考えられているのが「唇吸い」や「爪噛み」などです。ほかにもタオルを噛む行為やぬいぐるみを対象としたものも見られるようです。ここでは同様のものとして「指しゃぶり」に統一して解説していきます。

【指しゃぶり・唇吸い・爪噛みなどの背景】
 赤ちゃんが、この「指しゃぶり」に至る一連の行為は、専門的には「移行現象」と言われることがあります。もともと赤ちゃんにとって、生まれる前から生まれた後しばらくの間は自分の体、身体組織を自分自身のものとして認識し、それを上手に操作するなどの取り扱いをすることができません。生後3か月くらいから「ハンドリガード」といって自分で自分の手をじっくり見つめるしぐさがあるのもその表れです。

ハンドリガード:マイナビウーマンのサイトより転用

 赤ちゃんは口や手の感覚が非常に敏感です。逆に言えば、敏感だからこそいろいろなものを口に持って行って確かめる行為をしたくなるのです。つまり、その背景にあるものは、赤ちゃんの好奇心だったり身体感覚の分離状態であること、言い換えれば、まだ自分自身と周りの世界の境界が分からない状態で、好奇心から来る周りの世界の物質を確認できる(=好奇心が満たされる)ことが快感になっている、というイメージです。

「子どもの手づかみ食べはなぜ良いのか?」より

 それもそのはずで、ペンフィールドの報告によるホムンクルスイラスト(脳の感覚を示す地図のようなもの)からすれば、人は口と手がもっとも敏感なところだからです。だからこそ赤ちゃんがいろいろなものを手でつかみ口に持っていく行為は発達のうえでとても大切であり、なるべくなら妨げずに好きなだけなめさせてあげたいものです。

ペンフィールドのホムンクルスの図 看護rooより



 さて、この移行現象の「対象」となるものが、自分自身の手(指)であったり、身の回りのおもちゃであったり、それこそおしゃぶりだったりします。少し月齢、年齢が上がってくると、ぬいぐるみやお気に入りのタオルになる場合もあります。

 

【生理的指しゃぶりと癖】
 指しゃぶりには大きく分けて「生理的な指しゃぶり」と「習癖的な指しゃぶり」があります。生理的な指しゃぶり自体は、自分の指を認識し、それを確認するという一面があります。一方、これには不快な状態(お腹がすいた、愛情が満たされない、など)を解消させようと赤ちゃんが何とかしようと思って身近にある「モノ(=指、唇、など)」を、最高に敏感な「口」に持って行ってしゃぶりつく!という一面もあります。
 習癖的な指しゃぶりというのは、その状況が続いてしまうことで周りにあるおもちゃやぬいぐるみ、生活雑貨など愛着対象の移行イベントが発生しなかった場合に継続して起こってしまうことと考えられています。

 習慣的な指しゃぶりになると、顎の発育に形態異常が起こる可能性が言われていますので、歯科医院では指しゃぶりはいつからやめさせるべきなのか?はやく辞めさせたい!という不安から相談に来られる方がいらっしゃるわけです。

 実はこれまで述べたように、「生理的な指しゃぶり」という意味ではこうした一般的な「指しゃぶり」は、赤ちゃんの五感をはぐくむためには絶対的に必要なものと考えた方が良いのです。そのため、乳児期(0歳から1歳くらい)までの間であってなかなかやめてくれない、という不安はまったく気にする必要がない、ということになります。


 ただ、2歳くらいになって歯も生えてくると、歯ならびへの影響も心配になってくると思います。たしかにこの時期に強烈な指しゃぶりをしていると前歯がちょっとずつ前に出てきてしまうようにも見られます。これは別でまたお話が必要になりますが、実際は歯は結果として前に出るようになるのですが顎が内側に歪む(圧縮されるような動き)ことがそもそも歯ならびが変わる原因なのです。
 2歳以降では奥歯も生えてきて嚙み合わせに大きく影響してい来る時期になるので、少しずつ指しゃぶりに対する「そろそろやめさせた方がいいかな?」という時期に差し掛かってくると考えてよいでしょう。


 指しゃぶりをやめさせるためには、「抱っこ」に代表されるような肌と肌のふれあいがキーワードになります。そして、「なぜ指しゃぶりが継続されているのか」という部分を考える必要があります。

 ここで注意が必要なのは、「ということはうちの赤ちゃんは触れ合いが足りないのか?」と勘違いしてしまわないことです。確かに肌と肌のふれあいがキーワードになるのですが、赤ちゃんはもともと千差万別、十人十色な気質、性格を持っています。一人が好きな赤ちゃんもいれば(あまりいませんが💦)、寂しがりやでずっとずっと抱っこをおねだりする子もいます。その割合は「育てやすい子」「育てにくい子」「普通の子」だと同じくらいの割合だといわれています。

 ひかり歯科医院では、「しっかり抱っこをしてあげて赤ちゃんに安心感を与えてあげながら絵本を読んであげること」をお勧めしています。この絵本セラピーとでもいうべき取り組み方は、言い聞かせても言葉がよく理解できない時期としてはとても適切なアプローチだと考えています。言って聞くようなら言い聞かせておけばいいわけですが、実際2歳とはいってもまだ細かいニュアンスを理解できるほどボキャブラリーが発達しているわけではありません。それでも絵本を読み聞かせている時というのは、保護者の方がそばにいてくれるだけで赤ちゃんにとっては安心感があって心地よいものです。また、絵本の内容というのは(それがどういう内容であれ)何度も何度もお話を聞くことによりゆっくりじっくり理解して頭の中に溶け込んでゆくものです。このような絵本を活用して辞めさせられるように仕向けて行く取り組みをご紹介しています。(詳しくは受診時にご相談ください。)

【抱っこの効果、舐め舐め効果】
 さて、先ほどまでに赤ちゃんにとって「抱っこ」が大切だというような内容がありました。それは、赤ちゃんにとって抱っこが安心感が得られる最高の愛着獲得行為だからです。これを専門的には「安全基地」の獲得というように言っています。
 少し大きくなった赤ちゃんは物置の中の隅っこだったりカゴの中だったりとにかく小さな隙間部分に入りたがると思いませんか?これは自分の身体がそこにハマることを確認したい欲望を満たすための「モデリング」という行為なのですが、実はこういったせま~いところにすっぽりハマることが大好きなのです。

 そもそも、先の「移行現象(=指しゃぶり)」について振り返ってみます。「移行現象」が行われるのは、自分と周りの世界との境界線を確認している行為、ということは先に述べた通りです。そしてその大前提となるのが、自分が周りの世界に対して「安心安全な状態にある」ということなのです。
 つまり、安全基地があって、外界と自己の認証ができて、移行現象がおこる、というプロセスがここでは大切になります。そう考えると、指しゃぶりをやめてもらおうとした場合、移行現象が行われるように誘導することが大切です。
 移行現象が行われるためには「自分」という認識をすることと「外界」への境界線づくりが必要です。境界線の向こう側に対峙するために大切なのが、「安全基地」にいる状態です。その安全基地を作ってあげることが、指しゃぶりをやめさせようとする第一歩なのです。

 また、指を舐めたり、足指を舐めたり、服を舐めたり、おもちゃを舐めたり、場合によっては床に落ちているスリッパを舐めたり(潔癖性については保護者の許容範囲に拠ります)・・・赤ちゃんは実にさまざまなものを舐めます。思いもしないものを舐めることもありますし、想定外の事態も無いわけではありません。こうした舐める行為は、お口を通して「移行現象」を行い始めるものと考えられます。その際、当然ながらいろいろな雑菌がお口を通して体の中に入っていくことになります。ここでは赤ちゃんの舐める行為について、なるべく妨げないようにしてほしいので、2つほど注意点を書いておきます。

 一つは、もし雑菌が体に入ることが困るようであればおもちゃなどをきれいにするのは良いこととして、それらが汚いからということで妨げないようにしていただきたいのです。雑菌は体に入ることはあっても体内に入るわけではありません。ちょっとよくわかりにくいかもしれませんが、口から体に取り込むとは言っても、胃腸を通して「消化・吸収」が行われなければ体内に取り込まれるわけではないのです。つまり、口(摂食)→胃腸→肛門(排出)という流れの中では体の中に取り込んだと思われるかもしれませんが、実は体の外側の部分で行われていることなのです。いったんよくわからない場合は、とりあえずビー玉とか飲み込んでもウンチとして出てくるから大丈夫とかいうイメージでいいと思います。それよりも、こうしたものは世の中のいろいろな雑菌がありますので、体の中で認識してもらう「免疫獲得」というイベントを発生させることが大切になるのです。

 次にもう一つですが、舐める行為の途中で、「そんなの舐めちゃダメ!」と保護者が妨げようとする際、無意識に怒ることがあります。なるべく怒らないようにしてあげてください。この「怒る」という状況は赤ちゃんに対してむやみに不安を与える可能性があります。安心安全である保護者が、安全でない、安心できない(警報アラームでドキッとするように)、むしろびっくりしてしまうように感じてしまうとストレス反応(ストレスホルモンの分泌や脳の反射)が起こりやすくなります。もちろん状況、場合によります。たしかに子育て中では余裕がないときほど感情的に起こってしまいがちなのですが、そこをあらかじめ舐めても大丈夫なものを配備しておく、などの対策を取ったうえで、赤ちゃんに存分に舐め舐めさせてあげたいものです。

【4歳、5歳でも指しゃぶりが続いている場合】
 3歳までは指しゃぶり対策の絵本を読み聞かせたり、移行対象を与えたりしてなんとか辞めさせようと努力してきたものの、それ以降の年齢でもやめてくれない場合は心理的な問題が背景にあると考えられます。さらに4歳以降となると自我が強くなり、もうすでに一個人として人格は確立されています。しかもまだまだ自分が思ったことと体の動かし方が一致できないことが多いのが特徴です。
 このような時期にありながらも、保護者から指しゃぶりを辞めてほしいオーラがバンバン出ていると、もはやそれだけでプレッシャーを感じて、むしろ「絶対辞めてやらない!」みたいに意固地になってしまう子もいるくらいです。

 こうした場合では、完全に習癖的な指しゃぶりになってしまい、おそらくお口の形態異常(出っ歯や舌の突出など)が併発してしまう可能性が高いでしょう。
 この時期から指しゃぶりを辞めさせようとした場合、あるいはこの時期まで引きずってしまったが、改めて辞めさせようとしている場合、以下の二つの考え方をお勧めしています。

 まずは一つ目が積極的な考え方のものになります。
 これは、子どもさんを含めた家族の生活背景と実態から、現実的な方向性を持つというものです。指しゃぶりには「移行現象」に至る「安全基地」が必要だということは先に述べた通りです。それにのっとって、まずは子ども、特に幼児期(5歳くらいまで)に、規則正しい生活リズムを与えるように取り組んでみることです。そこには激しい、大きい、強い刺激は必要なく、むしろゆったりとしたおだやかなさわやかな生活のリズムが必要です。
 たとえば休み時間のガヤガヤした教室で一人自習をしてください、と言われてもなかなかできないと思います。でも静かな部屋でまわりもうるさくない状況なら自習をしても(やるかどうかやる気は置いておいて)できると思います。脳の中で、「ガヤガしている状況」と、「ゆったりしている状況」を比べてみたら、もちろんゆったりしている方が安心感は大きいはずです。子どもにとって安心感が大きくなるような、毎日変わらない習慣を持つ生活リズムというのが大切です。ここで子どもにとって安心感が感じられ、少しずつ指しゃぶりから解放されることが報告されています。
 もちろん、習癖的になってしまっている以上はこれでも改善できない場合もありますから、これで残念だと思う必要ありません。

 そして二つ目が消極的な考え方のものになります。
 結論としては、もう辞めてくれない!と開き直ってしまうことです。いざとなったら矯正治療するしかない、と思って子どもの好きなようにさせるというのも、一つの方向性としての結論でしょう。
 むしろ、指しゃぶりをしているところを写真を撮って、後で小学校高学年になって、さすがにそのころには辞めているものだとして、その指しゃぶりをしている写真を見て「こういう時期があって大変だったなぁ」と振り返るのもありだと思います。この時期では、ほとんどの場合、外では指しゃぶりをしている様子はなく、家の中だけで指しゃぶりをしていることがあります。それだけ家の中での安心感が大きいということにもなりますが。

【さいごに】
 4歳、5歳でも小学生でも、指しゃぶりには「理由」があるはずです。ただ、その生活背景には各家庭でいろいろな状況、理由、家族環境がありますから一概に言えるものではない、ということも分かります。したがって、その「理由」に向き合っていくことばかりが子どもの成長発達に良いことばかりではありません。成長の中でほどよい距離感を保つこともなんとなく認識しておくとよいでしょう。

例) アメリカインディアンの子育て四訓  
 1.乳児はしっかり肌を離すな   
 2.幼児は肌を離せ、手を離すな  
 3.少年は手を離せ、目を離すな  
 4.青年は目を離せ、心を離すな

【まとめ】
①指しゃぶりは移行現象のプロセスを通して行われる
②安全基地から外の世界に対して行われ、それは好奇心を満たす行為である
③抱っこなど、肌の触れ合いを大切にして、一人ひとりの性格にあった取り組みをしましょう