歯並び相談(2歳、3歳、4歳で受け口ですが治りますか?)

【はじめに】
 歯並びの問題について、いろいろな年齢に応じて受け口(反対咬合のこと、以下ここでは受け口=反対咬合を意味する)を気にされて相談に来られる方がいます。結論から言えば、

・2歳までの受け口は、生活習慣に気を付けてもらいます
・3歳の受け口は、噛み合わせをみながら今後、近い将来、どう考えるか検討に入ります
・4歳~7歳頃の受け口は、気になるならばいつ矯正治療をするかどうかの検討時期になります
・それ以降の受け口は、そもそも治療を考えるべきかどうかの相談になる

ということになります。

 当院での受け口の相談自体は、歯が生えてきたころ、つまり1歳から2歳くらいにかけて気になる、という方もいれば、4歳くらいで気になり始める方もいます。一方で、6歳くらいに大人の歯が生えてくる時期まで「自己判断ではあれとりあえず待つ」、ということで何とかなると思っていたけどやっぱり受け口のままだから…、という方もいます。

 受け口の相談(歯並びの相談)はざっくりと、「この受け口は大丈夫でしょうか?」というのが主な相談になります。ここで多くは大丈夫かどうか?ということを相談されるのですが、気になるようであれば大丈夫ではない、気にならないのであれば大丈夫、ということも言えます。何が大丈夫で、何が大丈夫ではないか、ということは、人それぞれ価値観が違うので一概にお答するうえでは責任が持てないことをご理解いただけますと幸いです。

 とはいえ、そもそも気にならないようであれば相談されることもないでしょう、ということを前提にすれば、気になるから相談に至るものと思います。となれば、やはり形態的な問題や機能的な問題が、将来的に起こるのであれば、今のうちに何とかできることをしたい!と考えるのが一般的だと思います。

 ここでは細かな解説とともに、当院ではなぜそのように考えるのか、対応としてどのように考えているのかをお伝えできればと思います。少々長くなりますがお付き合いください。



 【受け口(反対咬合)とは】
 受け口というものは、専門的には下顎前突症(かがくぜんとつしょう)と言われています。これは噛み合わせが上下逆になった状態のことをいいます。専門的には反対咬合ともいわれ、その言葉通り反対に噛んでいる状態を示します。俗っぽく言えば「しゃくれ」とか、「下アゴが出ている」イメージをすると分かりやすいと思います。

 当然ですが、見た目として骨格からそもそも受け口になっている場合は、下唇が上唇よりも明らかに前になります。

3歳の受け口(反対咬合)
受け口の孝明天皇(Wikipediaより)


 そのような受け口は、実際に専門的な治療を見据えた場合に、「軽度」であるのか「標準的」な成長によるものなのか、あるいは「シビアな難治性」のものなのか、ということが状況によりさまざまなので一概に説明しにくいところです。また、お口の中というのは、あまり普段の生活では気にすることが無い場所でもありますから、乳幼児健診や保育園や幼稚園、小学校の検診で指摘されてはじめて気づいた!という方もいます。こういった公の指摘を受ける場合は、実態としてはあまり指摘されることが多くありません。なぜなら、歯並びの問題はいざ治療を検討しようとすると経済的な問題やご両親ご家族の価値観の違いによって安易に指摘できないから、という背景があります。そのため、これまで検診でも軽度のものやあまり気にならないだろう程度のものでは、積極的に指摘されることは無かったのではないかと思います。しかし、一人ひとりの子どもさんへの細かいところが気にされるようになってきた最近では、むしろ親御さんから気になるという相談が、その程度の差はあれども多くなってきたようです。

<小まとめ>
〇受け口は「下あごが出ている状態」を示す
〇程度により、重度、中等度、軽度という分類がある
〇気になるかどうかは価値観によりさまざまである

【問題点と原因】
 この受け口には、「形態的に気になること」と、「機能的に気になること」があります。相談に来られる方の多くは、この形態的に気になること、つまり形態の問題について相談がある場合です。
 形態的な問題は大きく二つ、遺伝的先天的な問題と成長による後天的な問題があります。ただし、いずれにしてもその背景には機能的な問題が隠れていることがあります。機能的な問題とは生活習慣の中で使われる筋肉の使い方だったり日常の癖、姿勢だったり、そういった「形態」に影響する「身体機能」の問題のことです。
 診断においては、見た目に関して当然形態的なことは明らかに分かるのですが、機能的な問題を指摘させていただくこともあります。したがって、実際の治療に際しては、形態的問題とともに機能的な問題を併せて解決していく必要性も出てくるのです。
 簡単に言えば、機能的な問題が増えれば骨格性の問題が大きくなる、逆に、骨格性の問題が大きい人ほど機能的な問題も抱えている、というイメージになります(下図参照)。

<受け口の問題の分類>
①治療が大変な場合とは、顎の骨、つまりそもそも「骨格」が原因であるため横顔から見ても明らかに分かるもの
②軽度または標準的な場合とは、歯の位置的異常、つまり顔を見ても分からないけど歯を見たら上下逆になっているもの
<機能的な問題>
①姿勢 ②呼吸 ③発音 ④嚥下


 一般的には、「受け口は遺伝する」と思われている方も少なくないようです。たしかに、遺伝する事実はあります。しかしこの顎の発育はすべて遺伝で説明できるものというわけではありません。たとえば、原因の一つ、骨格的なものには、「遺伝による要因」と「生活環境による要因」の二つが複雑に絡まって成り立っているというのは先に述べた通りです。
 遺伝的な要因には家系的なもの(徳川家やハプスブルク家)も知られていますが、それが必ずしも「親が受け口だから」というわけではないのです。生まれてから親子で過ごす生活環境は当然ながらほとんど同じようになります。そのため、「生活環境によるもの」かどうか、遺伝による影響なのか、ということを明確に判断することは困難でしょう。もちろん、骨格の成長不足が基になった骨格ですので、親が出っ歯である、歯並びが悪い、ということも要因の一つに考えられます。つまり、まったく歯並びに問題が無い親の場合でも、受け口というのはその子に対して起こり得るのも事実なのです。

受け口のハプスブルク家スペイン王カルロス2世(Wikipediaより)


<受け口は骨格の成長によるものという考え方>
 たとえば、見た目で明らかに噛み合わせが反対になっているケースがあります。年齢的にみると、2歳くらいまではあまり目立たないものの、3歳以降では徐々に見た目でわかるようになっていくことがあります。
 これは専門的に言えば、骨格的な原因は「蝶形骨」という骨の成長が原因だと考えられています。つまり頭の骨そのものの成長の仕方に原因があると考えられています。そもそも上あごと下あごの成長の大きさが違うため、それこそ骨格の問題だと言われますが、その「上あご」の成長自体が「上あごの後ろにある骨=蝶形骨」の成長不足によるものだと考えるべきだからです。

Sphenoid bone.png
蝶形骨を示した部分(赤色)Wikipediaより

 

 一方で、見た目にはあまり受け口とは分からないが、口の中を見たら歯並びは上下逆になっている状態(軽度または標準的な受け口)ということがあります。この場合は、次の環境要因によるものが大きく影響していると考えられます。
 例えば、成長の中で起こる現象、つまり病気や習慣に起因するようなものです。幼いころからの鼻づまりなどの炎症関係、睡眠と呼吸や冷温刺激などの自律神経関係、姿勢などの生活習慣関係などがあります。やや細かい話になりますが、炎症に関しては、例えば中耳炎や鼻炎などの粘膜炎症により周辺組織の骨成長が抑制される報告があります。また、呼吸については睡眠が不規則であったり、生活習慣の中で自律神経が不安定であったりするようなことで、成長そのものに影響を受けてしまうことも報告されています。さらには、そこに姿勢の影響もあります。この姿勢に関しては「身体の使い方」に関係しているので、いったんここではまず大まかに関係するんだという程度に理解しておいていただければと思います。

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 ここで述べている骨格的な原因や環境による原因については、ほかの一般的なサイトでもまとめられているので参考にされてみてもいいかと思います。ただ、それぞれにどう対応するように考えるかは医院によってさまざまになりますので、あくまで参考ということでご判断ください。
<子育てハック>https://192abc.com/165529

 また、当院の矯正説明会でのお話の中でも、骨格成長による原因論についてお話しています。詳しくは「顎の発育説明会」にご参加ください。説明会については受付にてご予約を受けております。

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【年齢に応じた考え方】
 さて、ここまで「受け口とは」、そしてその大まかな「原因」について述べてきました。これらはなんとなく理解していただければ大丈夫だと思います。とはいえ、実際、受診される年齢はさまざまです。それぞれの年齢別に応じた、当院の考え方とその対応について、以下に述べていきたいと思います。

☑ 2歳の受け口(歯が生えてきたころに気づくこと)
 この頃に、すでに受け口の可能性があるんじゃないか?という不安を主訴に来院されてくる方がいます。まずは遺伝的なところが無いかどうかですが、親が受け口であった場合はその可能性は十分考えられます。しかし、成長の過程での育つ環境も大いに影響を受けることですから、一概に遺伝というわけではない、ということも理解していただいた方がいいでしょう。
 一方、親が受け口ではないのに気になるという方の場合は、赤ちゃん口の動かし方によくある「癖」、つまり顎を前に突き出したり横にずらしたりする、などの動き方に起因することが多いです。実はこれ自体には問題があるわけではありません。
 そもそも、赤ちゃんの場合は2歳くらいに最初の奥歯(第一乳臼歯)が生えてきたころに、上下の歯が噛み合うことになります。その頃に初めてアゴの位置が安定して噛み合わせが固定します。それまでは前歯しかないので噛み合わせは不安定な状況になります。たとえば、私たち大人でも、噛み合う奥歯が無かったら、噛み込んだときにどこで噛んだらいいか分からなくなるようなイメージです。つまり、「噛み合うところが無くて不安定な状態」の顎の関節であるからこそ、顎を前の方に突き出すようにしてしまうこともあるのです。そういう状況を見て、保護者の方は「受け口なんじゃないか?」と不安を抱えてしまうことが少なくありません。
 2歳くらいまでは、姿勢の影響を受けやすいので、抱っこの時にのけ反った姿勢にならないように気を付けたり、はいはいなどで培われるような体幹の成長を促してあげることで、顎の安定的成長につながるのです。生活習慣の指導などは院内で詳しくご相談ください。
 なお、当院では赤ちゃんのアゴの型取りをして「模型」にして詳しく形態を診てみることで将来に向けて方針を決める参考にしています。ご希望があれば模型を取らせていただくことも可能です。詳しくは院内でご相談ください。

<小まとめ>
〇奥歯が生えてくるころまで決定時期ではないので、もしまだ奥歯が生えていなければ様子をみること
〇奥歯が生えていれば、姿勢、食べ方など、生活習慣から対策を検討してみる(要相談)
〇ひかり歯科医院では模型を取って詳しく形態を診断することも可能

☑ 3歳の受け口(奥歯が生えてきたころに分かること)
 この頃になってくると、すでに奥歯は生えてきていると思います。であれば、ほぼ受け口なのかそうではないのか、という判断は明確にできるはずです。
 もし骨格的な問題と機能的な問題が混在されている状況であれば、今後、あるいは近い将来で、矯正治療を検討しておいた方がいい時期といえます。一方、先に述べたような歯槽性の問題に起因する条件であれば、大人の生え変わりの時期に逆転して治るケースも一部では報告されています。ただ、この場合は3番目の乳歯まで逆になっている条件だとほぼ90%以上の確率で、大人の歯も受け口になるとも言われています。
 当院では、矯正治療を検討する場合には、まずは子どもさんが歯医者さんのイスに寝転がれて、治療用機械に慣れていること、不安にならないことが条件で、そこから相談がはじまるものとしています。なぜなら、いくら治療したいということになっても、子どもさんが保護者に抱っこされたまま離れなかったり、口の中に機械が入れられなかったりする場合では治療ができないからです。つまり、母子父子分離(保護者が待合室で待っていただく状態)ができて標準的な歯科治療に対する不安がない状態が条件になります。
 もし治療を検討し始める場合、早い子では3歳から開始することがあります。それは受け口の場合、明らかに見た目の形態的問題が分かりやすいからだと思っています。受け口の場合は、骨格的な問題に加えて機能的な問題もありますから、早いに越したことはありません。
 ただ、矯正治療は経済的に困難で…という方の場合でも、必ず治るわけではありませんが骨格の成長の仕組み(顎の発育説明会による)を理解していただいた上で、噛み合わせを調整させていただく、それで一時的に上下が治った「ように見える」状態を作り出す、ということも物理的には可能です。そこから生活習慣の改善や各種トレーニングを行うことで標準的な成長軌道に乗るように仕向けることもできないわけではありません。しかし、この対症療法は「とりあえずの対策」の最たるものですから、第一にお勧めするものではありません。実際のところ、体への治療的介入というものは行われるわけです。何かを犠牲にしないでいいところだけ得ることはできないように、噛み合わせ調整による一時的な見た目の改善を目的とされる場合は、骨格が下方に成長する(顔が長くなる)ことを条件にしなければならないのです(詳しくは顎の発育説明会において)。

<小まとめ>
3歳は、軽度・標準・難治性という程度はあるが、早期治療の検討開始するかどうか考えておく時期
まずは標準的な歯科治療に対して子どもさんが対応できるかどうかが条件
一時的改善は可能だが、矯正治療を考えるか、対症療法だけにするか、時期的に方向性を決めておく


☑ 4歳~7歳頃の受け口(将来の矯正治療を見据えて)
 この頃には、永久歯が生えてくることもあります。場合により永久歯に生え変わるタイミングで逆転することもないわけではありませんが、ほぼ噛み合わせは決まっていると思っていただいた方がよさそうです。そのため、もしこの時期に治療を検討されるという場合では、なるべく早めにご相談いただいた方が望ましいです。一方、この時期においてもまだ歯槽性の可能性、つまり口の中だけの問題であり永久歯に交換するタイミングで改善する可能性がある、という場合には、一次成長期(5歳~7歳くらいの成長期)に起こる「骨格の成長」による期待もできます。それが3歳のところで述べた、一部の方の場合では改善されることがある、というものです。こうした場合では、ただ何もしない、ではなく、ある程度改善させるためのトレーニングなどをご紹介させていただく場合があります。いずれにしても、放置したり、ただ様子を見ていたり、というものではなく、まずは一度ご相談いただいた方がいいと思います。
 この時期にある受け口が骨格性の問題による場合であれば、やはり介入前に考えておくべきこととして治療の開始時期の問題があります。ある程度年齢が進むにつれて、成長期を利用した治療はできなくなってしまいます。率直に言うと、当院では、受け口の治療であれば成長による骨格の構造治療を行う場合、8歳くらいがリミットになります。もちろん早ければ早い方がいいという当院でのスタンスはありますが、遅くなればなるほど治療により改善を期待できる範囲、結果の割合が小さくなってしまいます。つまり、治療自体はできるのですが、それが妥当な治療結果として満足するものになるかどうかのグレードが、開始年齢とともに下がってしまうことがあり得る、ということです。
 ここで書いてある早期治療という考え方は、あくまで当院での治療に対する立ち位置になります。これは医院によって考え方もさまざまなので、セカンドオピニオン、サードオピニオンということでいろいろな医院の方針を聞いてみるのもいいでしょう。

<小まとめ>
〇生え変わりの時期は矯正による治療介入を検討する時期
〇遅くなると、治療不可能というわけではないが、結果のグレードが下がることになる(ひかり歯科医院の方針)
〇セカンドオピニオン、サードオピニオンは推奨


☑ それ以降 そもそも治療を考えるべきかどうか
 この時期になると、滑舌など機能的な問題が残っている場合があります。筋機能訓練といった、唇、舌、顔面の筋肉のトレーニングによって「機能面」の改善は可能になるかもしれませんが、「受け口」としての形態的な治療にはなりません。最終的には本格矯正治療、または外科的(骨を切る手術)治療を含む矯正治療を検討することになります。もちろん、この治療自体は必ずしなければならないというものではありません。
 たとえばスポーツ選手の中にも、受け口だけれども大活躍している選手はたくさんいます。ソフトバンクホークスの内川選手、元ニューヨークヤンキースの松井選手、などもそうです。お相撲さんにも受け口の方はたくさんいらっしゃいます。ヒトの体として、受け口というのは、成長の結果そうなったものであって、現代の美的価値観においてどう思うかは人それぞれです。したがって、治療の対象のなる場合というのは、精神的な問題として抱えてしまう場合、それ以外に呼吸や発音などの機能的問題が大きく感じられる場合などに限られると思います。
 幼少期に治療ができなかったからと言って、それが問題なわけではありません。それまでの人生で特に問題と感じられなかったわけであれば、その後もあまり問題にならない可能性だってあります。
 治療をするかどうか、というのはある程度の年齢を超えていた場合には、保護者と子どもさんの両者の意見をしっかりすり合わせたうえでよく考えてみるといいでしょう。

<小まとめ>
〇ある程度の年齢を超えた場合、治療の選択肢は限られる
〇治療は外科的な治療を含めた検討になる
〇治療しなければならないというものでもなく、治療しなくても生活に問題がないこともある

【まとめ】
〇受け口は形態的、機能的な原因が複雑に絡まりあって、成長の過程で成り立った結果である
〇2歳、3歳、4歳、またはそれ以降で、それぞれ対応する考え方がある
〇早めに治療したほうがいいが、やらなければならない、というものではなく、最終的には保護者が決めるべき