知らないと後悔する? 「過剰歯」と「先天欠損」・・・先天欠損

<もくじ>
・はじめに
・先天欠損
・対処法
・まとめ

【はじめに】
 「先天欠損」というものは、その名の通り先天的、つまり生まれつきで歯に欠損、つまりあるべきものが”無い”状態にあるものです。ここでは歯の本数が、本数はさまざまですが、標準(大人の歯では親知らずを除いて上下左右で28本)より少ない場合のことを示します。時期としては、歯の生え変わりのころに気づくことが多いのです。具体的には生え変わるべき歯が無かったりして気づくことがほとんどです。
 今回の記事を読まれている方で、もし前歯が一本少なかったりしたらどうでしょうか?実際にそういう方が少なくない確率で発生するのです。それが先天欠損です。

 一方、逆に「過剰歯」といって、歯の本数が標準より多いこともあります。この過剰歯は、機能的に使える歯というわけではありませんが、構造物としての歯という意味で存在することがあり、本数的に言って標準より多くなるものです。詳しくは過剰歯のブログをご参照ください。

 ひかり歯科医院では、ほとんどの場合は6歳前後にレントゲンを撮影し、歯の数を確認することを推奨(必ずしも撮らなければならないということではありません)しています。その理由は、過剰歯であっても先天欠損であっても、その後どのように状況対応していくことが適切か、治療計画を長期的に検討し始めるという意味でなるべく早く分かっていた方がいいからです。実際に日本小児歯科学会でも推奨されています。 → 過剰歯のブログ参照

【先天欠損とは】
 さて、先天欠損は、”はじめに”のところでも説明しましたが、その名の通り先天的、つまり生まれつき標準的に備わっているはずの歯が無いということです。場所別で言えば、特に多いのが下の奥歯、第二小臼歯と言われるところです。先天欠損そのものの発生頻度(人数)が全体で10%前後という報告があるくらいですので、割合に多いことが分かります。具体的にはクラスに1人以上は誰かしら先天欠損であると言えますし、多い場合には3人~4人くらいはいてもおかしくありません。

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 (ちなみに当院の院長も下あごの奥歯に両側とも1本ずつ合計2本の先天欠損があります。院長の場合は、もう年齢的に40代ですがまだ乳歯ががんばって残っています。小学生のころ、当時はレントゲンを撮らないまま治療になりましたし、小学生の虫歯=抜歯という医院が多かったせいか、そのまま抜いて放置の状態にありました。生えてこないのが不思議に思いましたが、歯学を学んで先天欠損ということを知り、今では早めに対処する必要性を感じています。)

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 先天欠損は、他にも「上の前歯」も発生頻度が高い方に分類されます。まれに上下いずれかの犬歯に発生することもあるようです。このようにあらゆる場所で欠損が発生するという意味では、親知らずも例外ではありません。親知らずが存在しない人がいる、という意味では、親知らずの先天欠損ということもあるわけです。もしかしたら30代~40代の方の中には、下あごの親知らずを大変な思いで抜歯された経験をお持ちの方もいるかもしれません。世の中には親知らずそのものが存在しない人もいるのです。

 なお、中には過剰歯があって先天欠損がある場合もあります。過剰歯=抜歯が必要、でありながら、先天欠損=歯がない状態、というなんとも皮肉な状態です。
 過剰歯については、それ自体の発生機序として、歯の構造が完成されるまでに非常に時間がかかります。そして成人になってもまだ根の形が完成していないこともあります。そのため、他の歯の生え方に悪影響を与えることがあります。したがって、そのまま過剰歯を放置するのは得策ではありませんので抜歯をした方がよりベターという結論になります。
 一方で、過剰歯がありながらも先天欠損がある場合、先天欠損の部分を穴埋めするためにその過剰歯を移植することはできないのか?という”「+1」+「ー1」=「±0」”のような都合の良いイメージもされる方がいるかもしれません。しかし、過剰歯自体はあくまでイレギュラーな存在なので、移植はお勧めすることはほとんどありません。

【対処法】
 ほとんどの場合はレントゲンを撮影して初めて過剰歯や先天欠損の存在が分かります。
 先に結論になりますが、もし先天欠損が確認されたら本来交換される乳歯を永久歯とみなして”極力絶対に虫歯でダメにしないこと”、つまり保存することに集中することが大切です。すでに虫歯治療がされていた場合は、それまで以上に注意することです。なぜなら治療により歯を削ってしまうとその歯の寿命がどんどん短くなっていってしまうからです。これは統計的に証明されています。
 歯には表面のエナメル質という固い組織があり、それより内側にある神経組織(血管や神経線維が存在している)にまで菌による感染が及んでしまった場合、歯の神経を取るという処置をしなければならなくなります。歯には動脈や静脈、リンパ管といった血管組織が存在しています。それは内臓と同じです。つまり「歯に血液が通っている=生きた組織」である場合には他の生体組織と同じように永く存在することができます。しかし血の巡りが無くなってしまった組織というのは、ほどなくして崩壊、脱落してしまうものです。髪の毛や爪などがわかりやすいでしょう。それ自体は永く存在可能ですが、生きている組織ではないためパサパサ、カサカサになるようなイメージです。
 したがって、先天欠損が確認された場合は、その交換されるはずの乳歯を、なるべく神経に至らないように治療などの手を加えず、「生えてくるはずの永久歯」=「今ある乳歯をすでに生えているもの」として認識し、存在させておくことが大切なのです。
 ただし、仮に虫歯治療がされていないものであったとしても乳歯が自然脱落、年齢とともに弱くなり抜けてしまうこともあり得ます。その原因はよくわかっていませんが、ほとんどの場合は噛む力に耐えられなくなったり、歯そのものの寿命、つまり加齢によるものだったり、場合によっては両隣歯による圧力によるものであったりします。

 とはいえ、もしもすでに先天欠損の場所にある乳歯が治療などの介入があったり虫歯になってしまっていた場合、さらにはすでに保存不可能であったり予後不良であるような場合であれば、なるべく早めに将来的な治療計画を見据えることが必要です。なぜなら、歯が抜けて無くなってしまった場合、両隣にある歯がその隙間空間に寄ってきてしまって、噛み合わせがガタガタになってしまうことがあるからです。しかもそれは割とすぐに、間もなく起こり得ます。
 あらかじめ歯がダメになると分かっている、でも次の歯が生え変わらない、ということが分かっていれば将来的にすぐに対応することで、状態の維持が計画的に可能になるのです。

 以下に、具体的な対処法としての例を示します。

①義歯
 いわゆる入れ歯です。若いうちに入れ歯を入れる、ということをイメージするとちょっと抵抗があるかもしれません。入れ歯ではなく、次にある「リテーナー」という意味で使用しておく、ということをお勧めすることが多いです。

部分入れ歯のイラスト


②リテーナー
 これはリテーニング(retain)、つまり維持することを主目的にした装置の名前です。抜けてなくなってしまった場所に対して状態を維持させるために、隣の歯が寄ってこないように、または噛み合う歯が伸びてこないように、総じて歯の並びを崩さないために装着しておくものです。矯正治療では後戻りを防ぐために使用することがあります。
 使用する上ではそのまま食事なども可能な場合がありますので、入れ歯というイメージに抵抗がある方はリテーナーとして装着しておくのも一つです。
 また、次以降にあるブリッジやインプラントなどの大掛かりになりそうな治療に対してまだ決心がつかない場合も、現状維持させておくため、治療に対する条件を変わらずに保っておくために、という考え方もアリです。

マウスピース型のリテーナーのイラスト


③ブリッジ
 これは歯周病などで歯が抜けてしまった場合に、入れ歯だと取り外しがわずらわしいという時に他の選択肢として選ばられることが多い治療方法です。両隣の歯を削って金属の差し歯でつなぎ合わせることを行います。したがって、一度削ったことのある歯がある場合や、どうしても入れ歯だと抵抗があり、なおかつインプラントなどの高額な治療は避けたい、という場合にお勧めすることがあります。

④インプラント
 これは歯の根にある「歯槽骨」と呼ばれる歯茎の骨に直接人工歯根と呼ばれる金属を埋め込んで、そこにかぶせ物を装着する治療方法のことです。保険が適応されないため、高額な治療として知られています。
 メリットは、他の歯を削ったりしない、見た目も使い勝手もかつての自分自身の歯と同じように感じることができることです。
 デメリットは、外科手術により埋め込むものであることと、かぶせ物の噛み合わせが固い人工物になるため術者(歯科医師)の技量により精度が左右されることです。また、人工歯根は金属ですので、自分自身の歯と同じようなものとはいえ、かなり固いものになるため、噛み合う歯を含めた全体的なメンテナンスが一生必要になる、ということがあります。あとは通常の治療に比べて高額な治療費が必要になることです。

インプラントのイラスト(歯の治療)

⑤矯正
 これは、そもそも抜けてしまった場合に奥の方から歯を手前に寄せて移動させることで歯並びを整える方法になります。治療によって歯を削ることもありませんし、将来的に継続して装置を付けておく必要もありません。ただし、矯正治療中は装置が必要になります。もとから矯正を検討しているという場合には第一選択となると思います。
 デメリットとしては、インプラントと同様にやはり高額な治療費用と継続的な長期通院が必要になるというところです。もちろん歯が動くときに痛みも伴いますので、その点もデメリットとして感じるかもしれません。
 とはいえ、インプラントの場合は失われたものを補填するという”後向き”な治療計画になります。それに対して矯正の場合は全体的な噛み合わせを作り上げていくという”前向き”なものになります。どちらが良い悪いというものではありませんが、先天欠損に気づいた時点の年齢に応じて計画を検討しておくという意味では検討の余地があるでしょう。
 なお、40代まででも乳歯は保存可能です。歯を前の方に寄せていく矯正治療であれば、ある程度の年齢になってからでも(痛いですが)可能です。治療目標を、親知らずが生えるスペースを確保するためと設定すれば、「乳歯抜歯+矯正」という治療計画も考えられます。

目立たない矯正器具のイラスト(女性)


⑥移植
 これは、先天欠損に気づいていたものの上記の治療方針は保留にしておいて、成人になってから治療を検討した場合に第一選択になることが多いです。この移植に使われるドナー歯として、その考え方の中心になるのが親知らずの移植です。
 親知らずは成人期に抜歯することが多いです。特に上あごの親知らずは真っすぐ生えてくるのですが、磨きにくくてむし歯になりやすいと言われています。さらに、下あごの親知らずは横向きになってしまうことが多いです。こうした場合、上下の親知らずで噛みあうことはほとんど無いので、特に上の親知らずは「単純にむし歯で痛くなるだけの歯」としての存在になってしまうことが少なくありません。
 その親知らずをきれいに抜歯して、そのまま乳歯が残っているところに移植すること(親知らず→乳歯があるところに乳歯抜いて植え替える)が技術的に可能です。ただし、先天欠損が前歯にある場合はさすがに大変難しくなります。したがって限られたケースで検討可能というものになるでしょう。

臓器提供のイラスト
移植イメージ(いらすとや)

【まとめ】
先天欠損は、本来あるべきところにある歯が生まれつき生えてこないもので、将来的に欠損状態になる
乳歯が残ってくれることもあるが、いつか自然脱落してしまうということを想定して将来設計として治療計画を検討
対処法にはいくつかあるが、いずれにしても乳歯を永久歯の代わりとして大切に保存する心がけが必要