サーモグラフィで見えた「歯固め」と赤ちゃんのお顔の変化~茨城県歯科医学会で発表しました~

はじめに

先日、2026年3月に開催された茨城県歯科医学会で、当院の取り組みをポスター発表する機会をいただきました。演題は「離乳食開始時期の歯固め使用に関するIRT(サーモグラフィ)の有用性」です。共同演者として、当院のスタッフにも力を貸してもらいました。

赤ちゃんの「歯固め」は、歯が生えはじめる頃のむずがゆさをやわらげる道具として、広く知られています。一方で、その歯固めを口に運ぶことが、赤ちゃんのお口やお顔まわりの働きにどのような影響を与えているのか――これを客観的に「見える形」で確かめた報告は、実はとても少ないのが現状です。そこで当院では、サーモグラフィという機器を使って、歯固めを使う前と後で赤ちゃんのお顔の温度がどう変化するのかを観察してみました。今回は、その内容をできるだけかみくだいてご紹介します。

そもそも赤ちゃんの「食べる」「飲み込む」という働きは、姿勢や呼吸、そして唇・舌・あごの協調した動きと、深く関わり合いながら育っていきます。とくに生後6か月ごろは、生まれ持った反射的な動きが少しずつ落ち着き、自分の意思でお口を動かす力が芽生えてくる、大切な転換点です。この時期に口で受け取るさまざまな感覚や、あごを動かす経験が、その後の「噛む」「飲み込む」力の土台になると考えられています。

サーモグラフィ(IRT)とは

サーモグラフィ(赤外線サーモグラフィ=IRT)は、体の表面から出ているわずかな熱をとらえて、温度の分布を色の濃淡で映し出す機器です。空港などで体温チェックに使われているのを、ご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

この方法の一番のよさは、体にいっさい触れず、痛みもなく測定できることです。採血のように刺したり、機械をぺたぺたと貼りつけたりする必要がありません。だからこそ、じっとしていられない赤ちゃんや、ちょっとした刺激でも泣いてしまう月齢の小さなお子さんの「ふだんの様子」を、そのまま観察できる――そんな利点があります。

何を調べたのか

今回観察させていただいたのは、生後6か月の赤ちゃん一人です。保護者の方に書面で同意をいただき、室温や湿度を一定に保ったお部屋で行いました。手順はとてもシンプルで、(1)歯固めを使う前の安静な状態、(2)歯固めを自由に使ってもらっている間、(3)使い終わった直後、という三つの場面で、お顔の温度を撮影しました。

お顔の中でも、おでこ・目のまわり・頬・口もと・あごなど、9か所に注目し、使う前からの温度の変化を細かく見比べています。

見えてきたこと ~お顔の上と下で、逆の変化~

観察を進めると、お顔の「上半分」と「下半分」で、対照的な変化があらわれました。興味深いことに、使いはじめて1〜2分のうちは目立った変化は見られず、5分ほど使い続けたあたりから、それぞれの場所で温度の変化があらわれてきました。

まず、口もとや頬、あごといった「下半分」では、温度が下がる傾向が見られました。これは、歯固めそのものに赤ちゃんのお肌が触れることで、体の熱が道具のほうへ移っていったことが、大きな理由と考えられます。冷たいコップを持つと手のひらがひんやりするのと、近いイメージです。

一方、目のまわりからおでこにかけての「上半分」では、ほとんどの場所で温度が上がる傾向が見られました。お顔の下半分とはっきり違う動きをしていたことが、今回の興味深い点でした。

そこから考えられること(院長の見解)

ここから先は、一例の観察をもとに私が考えていることとして、お読みいただければと思います。

お顔の上半分の温度が上がるという変化は、その部分の血流が増えたり、自律神経が反応したりして、お顔まわりが「はたらいている」サインなのではないか――そう受け止めています。歯固めを口に運ぶという何気ない行為が、ただ「噛む」だけにとどまらず、お顔まわりの活性化につながっている可能性がうかがえたのです。お顔まわりが活発に働くことは、表情をつくる筋肉や、これから育っていく「吸う・噛む・飲み込む・話す」といった働きとも、決して無関係ではありません。

こうした見方には、先行研究の裏づけもあります。赤ちゃんのお顔の温度変化が自律神経の反応を映し出すことを報告した研究があり、サーモグラフィが赤ちゃんの体の状態を客観的にとらえる手立てになりうることが示されています。今回の私たちの観察も、その考え方に沿うものでした。

ただし、今回はあくまで一人のお子さんを観察した「一例」です。これだけで、すべての赤ちゃんに同じことが当てはまると言い切れるものではありません。今後さらに症例を重ねていく必要がある、というのが正直なところです。

0〜6か月の歯固めは「感じる道具」

観察を通してあらためて感じたのは、生後6か月くらいの赤ちゃんにとって、歯固めはまだ「噛む道具」というより「感じる道具」なのだ、ということです。

実際、この時期の赤ちゃんが歯固めを口に運んでいる時間は、思いのほか短いものです。低い月齢のうちは、お口は「噛む器官」というより「感じる器官」としての役割が大きいといわれます。なめたり、くわえたり、舌で押したりしながら、ものの形や感触を確かめている――その積み重ねが、月齢が進むにつれて、やがてしっかり噛む力へとつながっていきます。歯固めという名前はついていますが、見方を変えれば、舌やのどまで含めたお口まわり全体を育てる道具とも言えるのかもしれません。

ですから保護者の方には、「たくさん噛ませなくては」と気負わなくて大丈夫です、とお伝えしたいと思います。口に運んで、なめて、感触を確かめる――その一つひとつが、お口とお顔まわりを育てる大切な経験になっています。歯固めとの付き合い方については、別の記事「歯固め・・・歯が生えてくる生後半年くらいから知ってほしいこと」でも詳しくご紹介していますので、あわせてお読みいただければうれしいです。

そして歯固めには、もう一つの役割があります。それは、離乳食をどう進めていけばよいか不安を感じている保護者の方にとって、その第一歩を練習する機会にもなる、ということです。お口に物を運び、なめて、噛んでみる経験は、やがてスプーンから食べ物を受け取り、舌やあごを使って食べていく動きへとつながっていきます。当院では、こうした歯固めの使い方を入り口に、お子さんの発達に合わせた離乳食の進め方をご一緒に考え、不安を和らげるお手伝いをすることもあります。離乳食や歯固めのことで気がかりなことがあれば、どうぞ一度ご来院のうえ、お気軽にご相談ください。

歯固めと上手に付き合うために

歯固めを使うときに、いくつか気をつけていただきたいことがあります。まず、口に入れるものですので、適度に洗って清潔に保ってあげてください。次に、月齢や赤ちゃんの手の大きさに合った、握りやすいものを選ぶこと。そして、誤って飲み込んでしまわない大きさ・形であること、ひび割れや破損がないかをときどき確認することも大切です。使っている間は、できるだけそばで見守ってあげてください。

まとめと、これから

サーモグラフィは、赤ちゃんに負担をかけず、痛みもなく、お口やお顔の発達の様子を客観的に見つめる――そんな新しい入り口になりうると、今回の発表を通じて感じています。これからも症例を重ねながら、赤ちゃんの口腔機能の育ちを見守る手立てとして役立てていきたいと考えています。

当院では、歯並びはあくまで結果であって、その土台となるのは「食べる・話す・呼吸する」というお口の働きそのものだと考えています。今回のような観察も、その土台がどのように育っていくのかを知るための、一つの試みです。

離乳食や口腔機能の発達については、「離乳食開始に向けて知っておいてほしい3つのポイント」や「3歳のお誕生日に、ろうそくの火を吹き消すことができますか?~口腔機能発達不全症~」、そして「0歳からの口腔機能と歯列の育て方」でもお話ししています。お子さんの「食べる・話す・呼吸する」の土台づくりに、少しでもお役に立てればと思います。

あわせて読みたい当院のブログ

・歯固め・・・歯が生えてくる生後半年くらいから知ってほしいこと

・離乳食開始に向けて知っておいてほしい3つのポイント

・3歳のお誕生日に、ろうそくの火を吹き消すことができますか?~口腔機能発達不全症について~

・0歳からの口腔機能と歯列の育て方

・「顎の発育説明会」の全体像を、簡潔にまとめました ~歯並びは「結果」です~

引用文献

Kretschmer SCA, Paul M, Heussen N, Leonhardt S, Orlikowsky T, Heimann K. Facial thermal response to non-painful stressor in premature and term neonates. Pediatr Res. 2023;94(4):1422-1427. doi:10.1038/s41390-023-02614-1