熱中症対策のつもりが…? 夏のスポーツドリンクと子どもの歯

はじめに

夏になると、運動の前後にお子さまへスポーツドリンクを持たせるご家庭がぐっと増えてまいります。熱中症が心配なこの季節、「ただの水より体にいいはず」という思いから、よかれと思って選んでいらっしゃる方がほとんどだと思います。テレビのコマーシャルなどでも、健康的なイメージで紹介されることが多いですから、自然とそう感じるのも無理はありません。ところが、その善意の一杯が、知らないうちにお子さまの歯にとって大きな負担になっていることがあるんですね。今回は、夏のスポーツとスポーツドリンクについて、歯科の立場から少し立ち止まって考えてみたいと思います。

スポーツドリンクの「二つの顔」

スポーツドリンクには、汗で失われた水分やナトリウムなどを補えるという、確かな利点があります。炎天下で激しく運動し、大量に汗をかく場面では、たしかに役に立つ飲み物です。

ただ、同じ飲み物が「糖分」と「酸」という、もう一つの顔も持っているんですね。歯にとって気をつけたいのは、まさにこの二つです。便利な飲み物ほど、いつのまにか「ふだんの一杯」になりやすい、という点も見落とせません。

とくに気になるのが、部活動やスポーツ少年団など、夏に運動する機会の多いお子さまです。汗をたくさんかく姿を見ると、保護者の方も「しっかり補給させなきゃ」とスポーツドリンクを多めに持たせがちです。お子さま自身も、のどが渇けば冷たくて甘いものをぐいぐい飲みたくなるものですよね。気持ちはよく分かるのですが、この「夏の運動=スポーツドリンクをたっぷり」という流れが、歯の負担という面では落とし穴になりやすいのです。

リスク① 糖分とむし歯

まずは糖分です。WHO(世界保健機関)は、砂糖などの「遊離糖類」の摂取を1日のエネルギーの5%未満、おとなでおよそ25gまでに抑えると、より健康によいとしています。ところが、砂糖入りの清涼飲料水は、製品によっては1本(缶)あたり角砂糖およそ10個分、40gほどの糖分を含むことがあります。たった一本で、一日の目安を軽く超えてしまうこともあるわけです。

そして、むし歯の観点でとくに問題になるのが「だらだら飲み」です。運動の合間に少しずつ、ペットボトルを持ち歩いて時間をかけて飲む。これをやってしまうと、お口の中が一日じゅう糖分にさらされ続けることになります。砂糖をなめ続けているのと近い状態が、ずっと続いてしまうわけですね。お口の中は、本来であれば唾液の働きで少しずつ中性に戻り、歯の表面も修復(再石灰化)されていきます。ところが、ちびちびと飲み続けると、その回復が追いつかなくなってしまうのです。とくに生え変わりの時期の、生えて間もない永久歯はやわらかく、むし歯になりやすいので注意が必要だと思っております。

リスク② 酸と酸蝕症

もう一つの顔が「酸」です。スポーツドリンクのpH(酸性・アルカリ性の度合い。数字が小さいほど酸性が強くなります)は、おおむね3.6〜4.6とされています。歯の表面のエナメル質は、pHが5.4あたりを下回ると溶け始めるといわれていますから、スポーツドリンクはその境目をしっかり下回る、けっこう酸性の強い飲み物なんですね。

酸によって歯が溶けることを「酸蝕症(さんしょくしょう)」といいます。むし歯が歯の一部分に穴をあけるのに対して、酸蝕症は歯の表面全体が少しずつ溶けていくのが特徴です。痛みなどの自覚症状が出にくく、気づいたときにはかなり進んでいることもあります。前歯の先が透けたように見えてきたり、歯の表面のツヤがなくなってきたりするのは、ひとつのサインです。つまり、だらだら飲みを続けると、むし歯と酸蝕症という二重の負担が歯にかかってしまうわけです。

リスク③ 全身への影響

話は歯だけでは終わりません。糖分の多い飲み物を飲み過ぎると肥満につながり、さらに進むと、いわゆる「ペットボトル症候群」といって、血糖のコントロールが大きく乱れて体調を崩してしまう状態が起こることもあると指摘されています。甘い飲み物で一時的にのどはうるおっても、糖分のためにかえってのどが渇き、また飲んでしまう——そんな悪循環に入りやすいのも、注意したいところです。お口の健康と全身の健康は、やはり地続きなのだと、あらためて思っております。

では、どうすればよいのか

ここで大切なのは、「スポーツドリンク=体を守る飲み物だから、たくさん飲めばよい」ではない、ということです。

日本小児歯科学会の見解としては、運動で汗をかくときには経口補水液を、運動が終わったあとや、ふだんののどの渇きには普通の水を、という使い分けが勧められています。スポーツドリンクと経口補水液は、見た目は似ていても、役割の違う飲み物なんですね。

簡単に整理しますと、経口補水液は糖分が控えめで塩分(電解質)が比較的多く、大量に汗をかいたときや脱水ぎみのときの「補給」に向いた飲み物です。一方のスポーツドリンクは甘みが強く糖分も多いので、ごくごく飲む日常使いには向きません。そして、ふだんのいちばんの水分補給は、やはり水やお茶が基本になります。三つを同じ「水分補給」とひとくくりにせず、場面で選び分ける、というイメージを持っていただけたらと思っております。そして何より、ペットボトルを持ち歩いて一日じゅうだらだら飲む、という習慣をつくらないことが大切だとされています。

ご家庭でできること

難しく考える必要はありません。ポイントは「禁止」ではなく「使いどころ」を意識することだと思っております。

  • 時間を決めて飲み、だらだら飲みにしない
  • ふだんの一杯は、水や麦茶を基本にする
  • 本当に必要な、激しい運動の場面でだけ上手に使う

こうした小さな工夫だけでも、歯への負担はずいぶん減らせます。ふだんの水分補給を水や麦茶に戻すだけでも、糖分と酸の両方からお口を守ることにつながります。麦茶であれば糖分も酸も気にせず、夏の定番として安心して持たせていただけます。お子さまが自分でペットボトルを買って持ち歩くようになる年代では、なぜ使い分けるのかを一度お話ししておくと、頭ごなしの「禁止」にならず、習慣として残りやすいように感じております。家族みんなで同じ飲み方をしていると、お子さまも自然と身につきやすいものですね。

おわりに

スポーツドリンクは、決して「悪者」ではありません。場面を選んで使えば、頼りになる飲み物です。大切なのは、熱中症対策とお口の健康、その両方をきちんと両立させることだと思っております。

当院で拝見していても、夏のあいだの飲み物の習慣が、秋以降のお口の状態に表れてくることは少なくありません。これは私自身が日々の診療で感じている実感であり、ぜひ夏の入り口に一度立ち止まって考えていただきたいところです。気になることがあれば、定期検診の際にいつでもご相談ください。お子さまの歯を、ご家族と一緒に守っていけたらと思っております。

さいごに、ちなみにですが、朝一杯のお味噌汁を飲んでおけば、あとはお水かお茶で十分な塩分は確保できますよ。

文責 ひかり歯科医院 益子正範

引用文献

  1. 日本小児歯科学会.イオン飲料とむし歯に関する考え方(小児科と小児歯科の健康を考える検討委員会,平成16年1月16日).https://www.jspd.or.jp/recommendation/article10/
  2. 豊田裕章.スポーツドリンクと経口補水液の違いを正しく理解しよう! 小児歯科臨床.2016;21(8):55-60.(上記学会見解の引用文献)
  3. World Health Organization. Guideline: Sugars intake for adults and children. Geneva: World Health Organization; 2015.