【はじめに】
当院では、矯正治療をご検討の方を対象に、月に1回、オンラインの動画で「顎の発育説明会」を開催しています。第1部「歯並びと顎の発育」、第2部「原因と結果とその対策」、第3部「方法・期間・費用」という三部構成で、合わせて1時間半ほどの内容です。本来は1日でお伝えする内容を、ご都合のよいときにご覧いただけるよう、動画にまとめたものです。
情報量が多いため、今回はまず、その全体像を一望できる「概観」としてまとめました。細かな仕組みや実際の症例、費用の内訳などはあえて省き、考え方の土台となる部分に絞ってお伝えします。一つひとつのテーマは、今後あらためてシリーズとして詳しくお話ししていきます。
見るべきは「歯」ではなく「上あご」
お子さまの歯並びについてのご相談は、6歳前後、ちょうど歯の生え変わりが始まる時期に多くいただきます。乳歯がガチャガチャに見える、すき間が気になる、大人の歯が内側から生えてきた——きっかけはさまざまです。
ただ、私たちが最初に注目するのは、実は歯そのものではなく、その土台である上あごの形です。上あごの中央がなだらかに広く保たれているか、それとも狭くすぼまって、舌の収まる空間が窮屈になっていないか。一見きれいに並んで見える歯でも、土台の状態はそれぞれ違います。ここが、歯並びを考えるうえでの出発点になります。
上あごが狭くなっていると、その中におさまっている舌の居場所が窮屈になります。舌は本来、上あごをそっと押し上げながら、ともに育っていくものですが、空間が足りないと、その力がうまく働きません。私たちが土台から見ているのは、つまり「歯が並ぶための場所そのものが、足りているかどうか」なのです。
歯並びは「結果」です
私の考え方の中心にあるのは、歯並びは「原因」ではなく「結果」である、ということです。
体の使い方や呼吸、姿勢といった日常のあり方が、まず顎の発育に影響します。そして、その顎の発育の結果として、歯が並ぶ場所が決まっていきます。体 → 顎 → 歯、という順番です。
たとえば、鼻づまりがあると、お口で呼吸するようになります。口呼吸では舌が上あごにつかず、だらんと下がったままになります。舌が上あごを押し上げる力が働かないと、上あごの発育が不足します。その結果として、歯の並ぶすき間が足りなくなり、歯並びが乱れていく——こうした流れが考えられるのです。
歯だけを見て並べ直すのではなく、その手前にある体や顎の状態から考える。お口は体の一部であり、お口の状態は体のさまざまなことが影響した結果である。これが当院の基本的な姿勢です。
上あごの「成長の向き」が顔つきを決める
上あごは本来、前へ向かって育っていくのが望ましい骨です。ところが、前に成長できず下に下がってしまうと、それがさまざまな形であらわれます。
いわゆる出っ歯も、受け口(しゃくれ)も、歯ぐきが見えるガミースマイルも、見た目はまったく違いますが、根っこにある共通点は「上あごが下がっている」ことだと私は考えています。たとえば受け口は、下あごが出すぎているように見えますが、多くの場合、下あごは普通で、上あごが前に育っていないために、相対的にそう見えているにすぎません。
そして下あごには、上あごの育ち方に「ついていく」性質があります。上あごが前に出れば下あごも前へ、上あごが下がれば下あごも後ろへと下がっていきます。だからこそ、土台である上あごの成長の向きが、お顔立ちやかみ合わせを大きく左右するのです。
少し意外に思われるかもしれませんが、お顔を正面から見たとき、目から下のおよそ半分は「あご」が占めています。上あごは、鼻や目のまわりの骨ともつながっています。そのため、あごの育ち方が変われば、お顔全体の印象もそれにつれて変わっていきます。歯並びのお話が、実はお顔立ち全体のお話につながっているのは、このためです。
日常でできる3つのこと——食べる・話す・呼吸する
顎の発育のために、ご家庭で意識していただけることは、大きく3つあります。「食べること」「話すこと」「呼吸すること」です。
「食べること」では、ただ硬いものをよく噛むこと以上に、噛み方を少し気にしてあげること。「話すこと」では、舌や口元の使い方に、ふだんから目を向けてあげること。そして「呼吸すること」は、この3つの中でも最も大切かもしれません。
お子さまが寝ているとき、お口がぽかんと開いていませんか。いびきをかいていませんか。お口が開いたままだと、あおむけのときに舌がのどの奥へ落ち込み、空気の通り道が狭くなりやすくなります。「お口ぽかん」や口呼吸、いびきは、ただのくせではなく、顎の発育を考えるうえで見逃せないサインなのです。
こうしたサインは、見た目や歯並びだけの問題にとどまりません。子どもの睡眠の質や、日中の様子にも関わってくることが報告されています。私自身も、日々の診療を通じて、その大切さをくり返し実感しているところです。それぞれの中身については、シリーズの中であらためて掘り下げてお話しします。
「歯を並べる」よりも「土台を育てる」という選択肢
骨格がもう動かなくなった大人にとって、さまざまな技術を尽くして歯をきれいに並べていく「歯列矯正」は、とても優れた治療です。
一方、成長期のお子さまは、骨格そのものをまだ育てられる時期にあります。そこで、歯を並べることを目的にするのではなく、土台である顎の発育そのものを整えることを目的とした、「顎顔面口腔育成治療」という考え方があります。当院で行っているバイオブロックやRAMPA(ランパ)と呼ばれる方法は、これにあたり、いずれも「あごを前に出す」ことを大きな方針としています。
どちらが良い・悪いということではありません。目的が「整った歯並び」そのものなのか、それとも「骨格からの健やかな発育」なのか。その考え方の違いだとお考えいただければと思います。
私自身は、子どものうちにできることとして、歯が並ぶその場所そのもの——つまり骨格的な位置関係を整えることに、より大きな意味があると感じています。これはあくまで私の臨床上の考え方であり、歯列矯正という治療を否定するものではありません。お子さまの状態やご家庭のお考えによって、最適な選び方は変わってきます。
治療を考えるタイミングと、これからのこと
こうした骨格からの治療には、おおよその適齢期があります。乳歯がしっかり残っている時期のほうが骨格を動かしやすく、目安としては3歳ごろから、遅くとも9歳ごろまでと考えています(個人差があるので状況と条件によります)。
成長を利用しながら進めていくため、治療期間は一般的な矯正よりも長めになります。費用についても当院なりの考え方がありますが、これは別の記事であらためてお伝えします。
ここまでが、「顎の発育説明会」の全体像です。バイオブロックやランパとは何か、お口ぽかんや口呼吸と歯並びの関係、費用と期間の考え方——こうした一つひとつのテーマは、今後シリーズとして掘り下げていきます。
歯並びが少し気になる、という段階で構いません。気になることがありましたら、当院の公式LINEアカウントやメールでお気軽にお問い合わせください。また、受診の際には簡単にご案内はいたしますが、詳細についてはぜひ一度、「顎の発育説明会」への参加をご検討ください。
