【はじめに】
毎年6月になると、学校や保育園の健診で、担当している施設に出向く季節になります。今回もいくつかの施設をまわり、たくさんのお子さんのお口を拝見してきました。健診では、おもにむし歯の有無や、不正咬合(歯並び・噛み合わせの問題)の状態を確認していきます。短い時間ではありますが、地域のお子さんたちの成長を毎年見させていただけるのは、私にとってありがたい時間でもあります。
そして今回は、市の保健センターの当番として、乳幼児健診も担当いたしました。1歳から5歳くらいの小さなお子さんたちを診させていただいたのですが、その中で、これまでで一番気になったことがありました。学校や保育園の健診とはまた違った気づきがありましたので、今回はそのお話をさせてください。健診というのは、ただ問題を見つける場ではなく、これからの育ちのきっかけをお伝えできる、大切な機会でもあると考えています。
【健診で見えてくること】
乳幼児健診で拝見していると、歯の汚れ、初期のむし歯、そして過蓋咬合(噛み合わせが深い状態)や反対咬合(いわゆる受け口)といった不正咬合が、毎年一定数のお子さんに見られます。これ自体は、例年とそれほど変わりません。小さなお子さんですから、汚れが残っていたり、噛み合わせがまだ整っていなかったりするのは、ある意味で自然なことでもあります。
先天欠損(生まれつき永久歯の数が足りない状態)も、やはり1割程度のお子さんに見られる印象です。これは私の実感だけではなく、科学的なデータでも示されているものです。日本小児歯科学会の全国調査では、永久歯の先天性欠如はおよそ1割、つまり10人に1人の割合で見られると報告されています。とくに前から5番目の歯(第二小臼歯)や、前から2番目の歯(側切歯)に多いとされています。決してめずらしいものではないのですね。先天欠損は、生え変わりの時期に乳歯がなかなか抜けないといったサインで気づかれることもあります。詳しく知りたい方は、過去の記事もあわせてご覧いただければと思います。
ちなみに、コロナ禍を経て、むし歯が増えたように感じますし、コロナ禍のなかで出産・子育てをされたお子さんは不正咬合が多いような印象も持っています。ただ、これはあくまで私個人の実感であって、科学的なデータがあるわけではありません。そこは正直にお伝えしておきます。生活の変化が子どもたちのお口に影響しているのかどうか、これからも注意して見ていきたいと思っております。
【今回いちばん気になったこと】
さて、ここからが今回いちばんお伝えしたいことです。
むし歯や不正咬合があること自体は、例年と変わりません。けれども今回、私がいちばん問題だと感じたのは、「かかりつけの歯科医院を決めていない」「持っていない」お子さんが、とても多かったということでした。
かかりつけの歯科医院があるお子さんは、お口の汚れもある程度コントロールできていて、むし歯もほとんど見られません。不正咬合についても、すでにどこかで相談ができていて、これからどうしていくかという見通しが立っています。ですから、健診で何かをお伝えしても、「それはかかりつけの先生にも言われました」と、落ち着いて受け止めていただけることが多いのです。日ごろから診てもらえる場所があるというのは、それだけで大きな安心につながっているのだと感じます。
一方で、かかりつけがいないお子さんは、汚れがしっかり取れていないために初期のむし歯が多く、不正咬合も相談されないまま放置されている。その結果、治療を始めるべきタイミングを逃してしまい、中には、将来的に手術が必要になるかもしれないレベルまで進んでしまっているお子さんも、一部にいらっしゃいました。同じ年ごろのお子さんでも、ここまで差が出るものなのかと、あらためて感じた次第です。決して保護者の方の責任ということではなく、「相談できる場所があるかどうか」という、ほんの少しの違いが、年月を重ねるうちに大きな差になっていくのだと思います。
そもそも「かかりつけ歯科医」とは、痛くなったときだけ行く場所のことではありません。むし歯がなくても定期的に通い、汚れの取り方や仕上げ磨きのコツを一緒に確認したり、歯並びや噛み合わせの育ち方を年月をかけて見守ったりする——そうした、ふだんからの付き合いができる歯科医院のことだと、私は考えております。お子さんの成長を知っている先生がいる、というのが何より大切なのです。
【なぜ「かかりつけ歯科医」を持ってほしいのか】
では、なぜ私がこれほど「かかりつけ歯科医を持ってほしい」とお願いするのか。理由はいくつかあります。
ひとつは、今、歯科医院の予約が以前よりも取りづらくなっているということです。「気になってから探す」「困ってから連絡する」というやり方では、すぐに診てもらえないことも少なくありません。痛みが出てから慌てて探しても、希望の日に予約が取れず、その間に状態が進んでしまうこともあります。日ごろからつながりのある歯科医院があれば、いざというときにもすぐに相談でき、対応も早くなります。
もうひとつは、たった一回の受診でできることには、どうしても限りがある、ということです。お口の状態は、その日の一点だけを見てもわからないことが多く、継続して見させていただくことで、はじめて成長の流れや小さな変化が見えてきます。先月は気にならなかったことが、今回は気になる。逆に、様子を見ていたものが落ち着いていく。そうした流れは、続けて診ていなければわかりません。だからこそ、長くお付き合いできる「かかりつけ」という関係が、本当の意味で力を発揮するのです。
そしてもうひとつ。赤ちゃんの頃、とくに生後3か月以内のお口の育て方への関わりが、その後の口腔機能に変化をもたらすということです。これは私自身が学会でも発表してきた内容でもあります。詳しいお話は別の記事に譲りますが、できるだけ早い時期から関わらせていただくことには、それだけの意味があると考えております。生まれてからの関わりが早ければ早いほど、できることの幅も広がっていきます。これは、私が日々の臨床と研究のなかで実感していることでもあります。
【周りの方にも、ぜひ伝えていただきたいこと】
最後に、このブログをお読みの方へ、ひとつお願いがあります。
かかりつけ歯科医は、ひかり歯科医院でなくてかまいません。お近くの、通いやすい歯科医院で大丈夫です。ぜひ、「かかりつけの歯医者さんを持っておくといいよ」ということを、周りのママ友・パパ友にも伝えていただけたらと思っております。一人でも多くのお子さんに、いつでも相談できる場所があってほしいと、心から願っています。
生まれたときからかかりつけ歯科医を持っておくこと。たったそれだけのことで、お子さんの健康な生活を支えるバックアップの体制が、ぐっと強固になります。何かあったときに駆け込める場所がある、気軽に相談できる人がいる——それは、お子さんにとっても、保護者の方にとっても、大きな安心につながるはずです。
健康、それは子どもたちへの、いちばん貴重な贈り物だと思っております。その贈り物を長く守っていくために、かかりつけ歯科医という心強い味方を、ぜひ早いうちから見つけてあげてください。今回の乳幼児健診を通して、あらためてそう感じました。
2026年6月10日 文責 ひかり歯科医院 益子正範
