【赤ちゃん歯科】 お口の形態・形状は、生まれて数か月で変化しはじめることをご存じですか?

【はじめに】── 0歳からの来院をおすすめする理由と、当院の取り組み

こんにちは。ひかり歯科医院、院長の益子正範です。
「歯が生える前から、歯医者さんに通うんですか?」
赤ちゃんを抱っこされたお母さま・お父さまから、当院でよくいただくご質問です。

たしかに、ひと昔前までは「歯が生えそろってから」「乳歯がむし歯になりそうになってから」歯科に行く、というのが一般的なイメージだったかもしれません。
しかし、当院では出産直後から生後数か月ごろからの来院を、保護者の皆さまに積極的におすすめしています。
それは、虫歯予防のためだけではありません。お口と全身の健やかな発育を、もっとも変化の大きい時期からサポートしていくためです。
今回は、なぜ当院が0歳からの来院をおすすめしているのか、その理由を、私が2020年に上梓した書籍、そして2026年5月の第64回日本小児歯科学会大会で発表した研究内容、そして日々の指導内容の3つの視点からお話しいたします。

【なぜ「0歳から」なのか】─ お口の形は生後すぐから変化している

「赤ちゃんのお口は、すぐに成長することはない」
そう思われている方が少なくありません。ところが実際には、赤ちゃんの上あご(口蓋)は、生後2〜3か月までの変化がもっとも大きいと言われています。
当院では、保護者の方の同意をいただいたうえで、生まれてまもない赤ちゃんの上あごの型取り(印象採得)を行い、石膏模型として記録させていただくことがあります。生後数日と生後1か月の模型を並べて見ていただくと、わずか1か月の間で、形がはっきりと変わっていることに、多くの保護者さまが驚かれます。
横幅があってゆったりとした形だったお口が、1か月のうちに少し細長く、三角形に近い狭まった形に変わっていく赤ちゃんもいます。逆に、生まれた時はやや細かったお口が、ふっくらと良い形に育っていく赤ちゃんもいます。
この差は、どこから生まれるのか。

実は、赤ちゃんの日常生活が、思っている以上にお口の形に関わっています。抱っこの仕方、寝かせ方、向き癖の有無、哺乳のときの姿勢、おっぱいや哺乳びんの飲み方。こうした生活の積み重ねが、まだ柔らかく可塑性の高い時期の赤ちゃんのお口の形に、少しずつ反映されていくのです。
歯が生えそろってから「歯並びが気になります」とご相談に来られる方は、6歳前後にとても多くなります。けれども、お口の形が変わっていく勝負どころは、実はもっと前、生後すぐから1歳前後までの時期にあるのです。だからこそ当院では、0歳からの来院をおすすめしています。

【2020年の著書について】─ 全国の歯科医療従事者に向けて発信した「赤ちゃん歯科」

私は2020年、『0歳からの口腔機能と歯列の育て方』という書籍を、歯科専門の出版会社であるクインテッセンス出版より上梓いたしました。
これは、一般の方向けの育児書ではなく、全国の歯科医師・歯科衛生士など歯科医療従事者に向けた専門書です。当院がこれまで長年にわたって積み重ねてきた赤ちゃん歯科の臨床経験と、多職種の医療関係者との連携の中で培った知識・ノウハウを、一冊にまとめたものです。
本の中では、たとえばこのような考え方をお伝えしています。

・お口は身体の一部として捉える
・姿勢へのアプローチが赤ちゃん歯科では不可欠
・赤ちゃん歯科の取り組みは出生直後から
・形態形成(お口の形を整えること)よりも、まずは口腔機能の獲得を優先する

少しむずかしく聞こえるかもしれませんが、つまるところ、「お口だけを見るのではなく、赤ちゃんの全身、生活全体を見ながら、必要なサポートをしていきましょう」という、当院の指導の根っこにある考え方です。
専門書として上梓したこの本は、今でも全国の歯科医院で、赤ちゃん歯科を学ぶ際の入門書として活用されています。当院の患者さまにお伝えしている指導は、その場の感覚や経験だけによるものではなく、書籍化されるレベルで体系化された知見に基づくものであることを、皆さまにご安心いただける材料の一つとしていただければ幸いです。

【第64回小児歯科学会での発表】─ 9年半にわたる赤ちゃんの口蓋形態の追跡研究

そして2026年5月。私は第64回日本小児歯科学会大会において、赤ちゃんの口蓋形態に関する研究を発表いたしました。演題は「新生児期から観察した一卵性双生児における口蓋形態の経年的変化」です。
これは、当院に生後早くから通ってくださっている、ある一卵性の双子の姉妹について、生後6日から9歳6か月まで、合計14時点にわたって上あごの模型を採取し、その経年的な変化を追いかけた研究です。
遺伝的にほぼ同じ条件で生まれてきた一卵性の双子であっても、お口の形には出生直後からすでに小さな違いがあり、その違いが乳歯列期にいったん縮まり、その後の混合歯列期(永久歯への生え変わり)にふたたび広がるという、興味深い経年変化が認められました。
この研究からわかってきたことは、大きく次の点です。

・生まれて間もない時期のお口の形の特徴は、その後の長期にわたる顎顔面の成長に影響を及ぼす可能性がある
・歯が生える前の段階からの口蓋形態の観察に、早期介入の手がかりとしての意義がある
・乳歯から永久歯への生え変わり期にも、改めて形態評価を行うことが重要である

つまり、「歯が生えてから様子を見ましょう」では、赤ちゃんの一番大事な時期を過ぎてしまうかもしれない、ということです。
当院では、こうした研究に基づく視点を、日々の臨床の指導に還元しています。長年にわたって患者さまの記録を取り続け、学会という場で発表し、外部の専門家から検証を受け続けていること。これも、当院の赤ちゃん歯科への取り組みの特色の一つだと自負しております。

【0歳から伝えられる、生活の中の小さな工夫】
ここまで書籍と学会発表のお話をしてきましたが、当院がもっとも大切にしているのは、毎日の診療の場で、保護者の皆さまに直接お伝えする一つひとつの指導です。
0歳からの来院では、たとえば次のようなことを、保護者の方とお話ししながら確認していきます。

・抱っこの仕方 ── 赤ちゃんを丸く抱っこしていただくこと、のけ反らせない抱き方
・寝かせ方と向き癖 ── 頭の向き癖が片寄っていないか、頭の形(斜頭・絶壁)への影響
・哺乳時の姿勢と飲み方 ── 母乳でも人工乳でも、深くくわえて飲めているか、下半身が安定した姿勢になっているか
・人工乳首の選び方 ── 月齢や発育に合った乳首を選ぶための情報提供
・離乳食を始めるタイミング ── 月齢だけで判断せず、お子さまの発達に合った時期を見極める
・わらべうたや、うつ伏せ遊び ── 全身の発達を通してお口の発達をうながす、日常生活での関わり方

これらは、「やらなければ大変なことになります」というものではありません。「知っていて損はない」知識として、保護者さまの生活スタイルやお考えを尊重しながら、必要に応じてお伝えしているものです。
実際、これらの指導をしなくても、お子さまは健やかに成長していくことが多くあります。ただ、ちょっとした工夫を知っていただくだけで、より良い方向にお口と全身の発育を導けるとすれば、それを早い時期にお伝えしておきたい。それが当院の願いです。
また、頭蓋変形(斜頭や絶壁)が気になるとき、低出生体重で生まれた赤ちゃん、発達に少し心配があるご家庭など、それぞれの背景に応じた個別のサポートも行っています。必要に応じて、小児科や助産院、地域の他職種と連携してまいります。
そしてもちろん、生後すぐの時期から定期的に来院いただくことで、むし歯予防の習慣を生活の中に自然に根づかせることもできます。歯が生えてからではなく、生える前から「歯医者さんは怖くない、いつもの場所」になっていただくことも、お子さまの一生のお口の健康にとって大きな財産になります。

【おわりに】─ 妊娠中のご相談から、お受けしています

0歳からの歯科受診というと、「ちょっと早すぎるのでは」とためらわれる方もいらっしゃいます。けれども、お口の発育の観点からも、保護者さまの育児の心強い伴走者という観点からも、早ければ早いほど、お伝えできること、ご一緒できることがあります。
当院では、妊娠中のお母さまからのご相談も歓迎しております。生まれてくる赤ちゃんに、どのように関わっていけばいいのか。出産前から知っておけることはたくさんあります。
また、上のお子さまが当院に通われているご家庭では、ご兄弟・ご姉妹の通院に合わせて、新しく生まれた赤ちゃんを一緒にお連れいただくことも、よくあります。
「歯が生える前から、ちょっと相談してみようかな」といった感じの気持ちで、お気軽にお越しいただければ幸いです。

参考
益子正範 著『0歳からの口腔機能と歯列の育て方』クインテッセンス出版、2020年
益子正範「新生児期から観察した一卵性双生児における口蓋形態の経年的変化」第64回日本小児歯科学会大会、2026年5月