生えてきた歯が黄色い???大人の歯の色の違和感

【はじめに】

保育園、幼稚園の年長さんくらいになると、下の前歯が抜け始めるお子さんがいます。中には周りのお友達が抜け始めてきたのを見聞きして、みんなよりも早めにお兄さんお姉さんへの階段を登った、と優越感を感じる子もいます。そんな中、「早く自分も生え変わったらいいのに!」「早く生え変わりたい!」と思い、保護者に向かってあたかも自分も生え変わってきたと思わせたくて、お口の中が痛いよー、と言ってみせて、困惑させられたことがある方もいるかもしれません。

そんな中、実際に歯の生え変わりの時期に歯が生え変わってみたら歯の色が何か違う、何か違和感を感じる、と思ったことのある方もいるかもしれません。ここでは生えてきた歯を見たら何か黄色かったり茶褐色だったり、変な形だったりその違和感について解説してみます。

————————-

【歯の色や形のいろいろ】

①隣の歯に比べて歯が全体的に黄色いと感じる場合

特にこのケースでは下の前歯が最初に生え変わった場合が一般的です。下の前歯は保護者にとっても特に目立ちますし、目に付くところですので、まじまじと見ることもあるでしょう。そして、ふと隣と歯と比べてみると生えてきた大人の歯の方が若干黄色がかったように見えることがあります。そんな時、一般的に歯が黄色い=むし歯の始まり?と疑ってしまうような心理から不安になることがあるようです。

歯自体が黄色く見えるのは、大人の歯の構造的特徴のせいです。というのは、歯の表面にはエナメル質と言われる固い硬組織があります。もちろん乳歯にも表面にエナメル質があります。その両者の厚みで比べてみると、永久歯のエナメル質の方が厚みがあるのですが、乳歯のエナメル質は構造が粗造になっているためくすんだ色をしてしまう=白みが強く見える、というわけです。たとえるなら、永久歯のエナメル質は厚みがあり透明度の高いガラスで、乳歯のエナメル質は厚みはあまりない透明度の低いアクリル板のようなものです。(乳歯の方は、曇りガラスやすりガラスなどという例えをすることもあります)

また、永久歯の方がエナメル質の中にある「象牙質」(黄色い構造物)と言われる構造が厚く、透明度の高い透き通ったエナメル質があれば当然ながら中の象牙質の黄色さが目立つということも理由として挙げられます。

こうした理由から、永久歯と乳歯が並んでいる場合、永久歯の方がそもそも構造的に永久歯の方が黄色く見えてしまうというわけです。

————————-

②歯の一部が他の歯と違う形をしている場合 形成期の不具合によるもの 形成不全歯 構造的な特徴によるもの 部分的に黄色から茶褐色になっている

これは、永久歯が作られている時期、つまり乳歯の段階の時期(年齢で言えば0~5歳くらい)ではまだ永久歯は卵の状態のような未完成な状態にあります。例えば、お腹の中にいる赤ちゃんの状態でいうと、胎生20週というとまだまだ未熟児です。胎生36週っていうとまぁそろそろ生まれることがあってもあり得るかなぁというくらい、ではあってもまだ未熟児に入るくらいです。でも胎生8週くらいだったら未熟児にも当てはまらない、まだ神経ができていても皮膚などすらできていない状態です。  歯の作られ方にも、同じようにお腹の中にいるうちに永久歯のエナメル質が作られるものもありますし、0歳0か月時点から大人の歯のエナメル質が作られ始めるものもあります。とはいえ、成長の仕方は人それぞれ個人差があるので、明確にどの時期にどの歯がどういう風に作られているか、というのは分かりません。ただ、一つ言えることは部分的に黄色または茶褐色になっている歯があって、それが表層のエナメル質の形成不足である場合があるということです。  エナメル質の形成不足というのは、歯の構造の問題として表面的に存在している一番固い部分(=エナメル質)が作られる時期にしっかり構造物として作られることがなかったせいで、見た目としても構造としても不完全なものとして完成してしまうものと言います。例えば、建築物でいえば家は外壁がしっかり密閉されてるのが当然です。屋根の一部でも構造のすき間があるようだったら雨漏りしてしまいますし、壁に穴があったらすき間風が通って非常に寒い思いをしてしまいます。もちろん見た目にも歪みがあったり傾いていたりしていたらちょっと困ります。同じように、歯の単体構造をイメージしてみても、表面にあるエナメル質に細かい穴(見た目には目立たないとしても)があったら中の象牙質という組織が透けて見えてしまいます。この状態が象牙質の色(=茶褐色)が見えている状態、そしてエナメル質が形成されていない状態ということが言えます。  当然ながら構造として不完全な状態なので、構造の中の方にむし歯のリスクが高くなる可能性はありますし、そもそも症状として凍(し)みてしまう可能性もあります。これが歯の生えてくる時期や交換期(6歳~11歳くらい)に発見されることが少なくないのです。

————————————————–

③歯の先端部分が一部黄色い場合 外傷によるもの ターナー歯

部分的に黄色から茶褐色になっている

乳歯がある時に、何らかの外的なダメージによる負荷がかかったこと(たとえば事故で歯をぶつけてしまった!など)により、乳歯の根の先あたりに炎症が起こってしまい、それにより根の先付近に存在していた、いわゆる製造中の永久歯に何らかの影響が起こってしまったことが原因と考えられています。これをターナー先生という偉い人が発見したので、ターナーの歯と呼ばれているのです。詳しくはこちらのリンクにも書いてありますのでご参照ください。

④まだらな白い斑点模様になっている、または部分的、点状に白い場合

1歳0か月時点 まだらに白斑がある
1歳10か月時点 白斑はなくなってきている

これもエナメル質形成不全のひとつと考えられています。先述したように、歯の構造が作られる時期は未就学児くらいまでになります。お腹の中(胎生期)からその時までに歯の表面構造の形成中になんらかの”抜け”があったか、またはシミのようなものとして色合いが100%ではなかった場合に白濁として認められることがあります。  とはいえ、この程度のものであれば、歯が生えてから数年間唾液にさらされたり歯磨き粉やフッ化物ジェルなどの塗布により、ハイドロキシアパタイトとして再石灰化されることで透明感のあるツヤツヤな構造に再構築されていくものです。そのため、この程度のものはあまり心配する必要はありません。

————————————————–

⑤根元部分が線状に白い

これは、先ほどまでの白斑、白濁といったものとは違う可能性があります。というのは、同じ白濁ではあっても先ほどの④で書いてある白斑は構造的に認められる歯のシミのようなもので、歯が作られる時期に完全体にならなかったことが原因だからです。一方、こちらで述べる”線状に白い”ということは、むし歯としての歯の濁りができてしまったことに原因がある可能性が高いからです。  歯はタケノコが生えてくるように、歯茎から少しずつ少しずつ伸びて生えてきます。それは数か月単位のものになりますが、より詳細には1週間で0.5㎜~1.0㎜程度というゆっくりしたペースで生えてくるものです。その生えてきている時期に1か月間の中で、ある特定の時期に食生活の乱れ(お菓子やジュースのだらだら食べなど)や、歯磨きの習慣が無かったなどのむし歯になるリスクが高い生活があったことが背景に考えられます。なぜなら、その時期に歯の根元部分に特徴的に汚れやむし歯になる高リスクな細菌の繁殖が認められるからです。  したがって、ここまでに解説したような、いわゆるエナメル質形成不全とは別の、結局はむし歯です、という結論としていろいろ見直しが必要になるケースとなります。

————————————————–

<番外編>

〇矮小歯・・・生まれつき歯が小さいことがあります。これは上の前歯の中央から2番目の歯が矮小歯として認められることが多いようです。矮小歯だからといって何か特定の治療が必要ということはありません。これもエナメル形成不全のように、歯が作られる過程においてちょっとした製作工程の行き違いがあって出来上がったものだからです。歯そのものの機能や構造に問題はありません。ただし、ちょっとだけ見た目が気になるかもしれませんので、その場合はかぶせ物や詰め物などの対応でちょっと変わるかもしれません。もし気になるようでしたら医院にてご相談ください。

————————————————–

〇癒合歯・・・生まれつき歯が2本分くっついて連結してしまっている歯のことです。これは下の前歯によくみられます。乳歯に癒合歯があると、永久歯が先天欠損といってもともと作られることがないことがあります。また、癒合歯だからといって永久歯が無いというわけではなく、普通に生えてくる場合もありますし、永久歯もまた癒合歯として出てくる可能性もあります。歯としてくっついているのでフロスができないなどの問題はありますが、その機能において特に困ることはありませんので、特別に心配しなければならないこともありません。

————————-

【さいごに】

ここまで、歯の色という視点から歯の構造の問題やそれに派生する内容についていくつか解説しました。子どもさんの健やかな成長を願う保護者の方からすれば、確かに生えてきた歯に違和感があったらちょっとびっくりするかもしれません。そして、それが歯の構造の問題だった場合、何もすることがないという気持ちになって、安心する方もいれば責任感を持ってしまう方もいるかもしれません。ただ、歯の構造の問題は原因がはっきりしていないことが多く、奇形というわけでもありません。エナメル質形成不全は、成ってしまったものは仕方がないので生えてきたこれから再石灰化を促したり、それ以上のむし歯リスクを高めないことが大切です。また、白濁については、当院では、歯の(黒くない)ホクロのようなものだと説明させていただくこともあります。  歯は食べるための機能以外にも、見た目としてのアイデンティティの一つとして大切な器官です。子どもさんへの気持ちを当院でもしっかり共有して、対応を考えていきたいと思いますので、気になる場合はご相談ください。