離乳食開始に向けて知っておいてほしい3つのポイント

【はじめに】

一般的に離乳食といえば生後6ヶ月後くらいから少しずつ流動性のあるもの、柔らかいものから始めて、ゆっくり固形物への移行を進めるものだとされています。ただしこの定義は、あくまで一般論なものであり、離乳食という「食べ物」についてのみ規定した言い方に過ぎません。ということは、この言い方では離乳食の実際のところはそれぞれの子育て養育者任せということを示しているに過ぎないのです。

そして、いざ離乳食を進める場合、特に第一子のお子さんであればなおさら不安です。なぜならおじいちゃんおばあちゃんに聞けない環境が少なくないからです。というのは、実はおじいちゃんおばあちゃんは伝統的な離乳食というものがどういうものかというのを伝承されてきた世代では無いからなのです。実は、「戦後生まれから1960年生まれ」までの世代、そしてそれより後に生まれた世代の人たちというのは育児に関してこれまでの日本人にはない伝承のしかたがあります。今の祖父母世代というのはほとんどが1960年以前に生まれた祖父母の方が多いのではないでしょうか?(もし若いおじいちゃんおばあちゃんがいましたら参考までに聞いてください)この1960年以前生まれの世代にとって、子育ては育児書をみて育児をしてきた世代です。一方で、育児情報というのは時代とともにアップデートしていくものです。ゆえに、育児書で育児をした世代の情報はかなり古いものになる、つまり、たとえばスマホの使い方を聞きたいのに黒電話しか使ったことがない人に使い方を聞いても分からない…という現象になっているのです。

では、今の子育て世代の保護者は何を見聞きして参考にするかというと、ネット情報です。ここのブログもネットですが。とはいえ、おじいちゃんおばあちゃんから聞く情報も、ネットの情報も、育児書の情報も、全てに共通するのは過去に特定の人が言った理論的な離乳食の始め方です。そこから何年、何十年もかけて栄養学者、保育士、言語聴覚士、そして歯科医師らがエビデンスを積み重ねて、いろいろわかってきたことがあります。ひかり歯科医院では今回それをここに体系的に「共食」「主体」「姿勢」が大切なポイントとして、大きく3つにまとめてみました。

【共食】

まずは「共食」です。ここでの結論としては、食べ物を第三者を含めて複数人で楽しく遊びながら共有してお互い食べたり食べさせあったりすることでコミュニケーション能力、非認知能力を高めていくことが大切、ということになります。

赤ちゃんは、その発達の段階を進む中で身の回りにあるものから外の広い世界に目を向けていくようになります。例えば、新生児の頃はあまり目が見えなくても手に触れるものを触りたくなるし、3〜4ヶ月くらいになると自分の手をジーッと見つめたりガラガラ音がするおもちゃに反応したりします。そのうち、自分の目の前にあるものを自己とは違う対象物(非自己)として認識するようになるのです。そして、さらにそこに保護者である大人が登場することにより、それを第三者としての存在が認識されるようになっていくのです。

離乳食では、単に自己ではないモノとしての食べ物と、それに関わる第三者としての「ダレカ」が介在することで、食べ方や食べさせられ方に大きく影響することがわかっています。これを「三項関係」という考え方で説明されることがあります。ポイントとしては、単に誰かが食べさせるだけの離乳食というものではなく、あるいは単に何かを食べるだけの離乳食というものでもなく、誰かと何かを一緒に食べる、ということになるのです。もちろんそこでは当然ながら赤ちゃんですから、食べ物をおもちゃのようにぐちゃっとつぶしたりぶん投げたりすることもあるでしょう。そして上手に食べられないこともあると思います。しかしながら、その中で食べ物というものがいかに美味しく、安心、安全であるものかということを保護者が食べていることを通して学んでいくのです。そして、されには赤ちゃんに食べさせる行為は、自分も保護者に対してさせてあげる、つまりマネをして食べさせてあげたい意欲(誰かに何かをしてあげる意欲)も育まれていくのです。

また、アップデートしていただきたい情報の一つに食具の共有があります。これはかつては親が使ったスプーンなどはむし歯菌が移るからダメ、とされている情報がありました。今でもこの情報を信じて赤ちゃんとキスをしなかったり食べ物をお皿で別々に分けているという話を聞きます。しかし、この食具の別離については明確な根拠が無かった、ということが分かっています。しかも、逆に0歳時点で食具を共有することでアレルギー疾患の抑制において有効だったという報告が多数発表されることがありました。したがって、現代では食具の共有は推奨とまでは行かなくても、無理に分ける必要はない、ということが最新情報とされています。こういった観点においても、共食という考え方にこれを含めてもいいと考えられます。

【主体】

次に「主体」についてです。赤ちゃんは主体的な行動をするものと考えられています。脳機能の発達においては、どちらかというと理性的な行動よりも本能的な行動になるから、あるいは理性を制御するコントロール能が未熟であるから、と言われています。

赤ちゃんは、食べたい時に食べたいだけではなく、お腹がいっぱいでも見た目やにおい、五感で感じる食べたくなるような「モノ」がそこにあれば、「食べたい」「欲しい」というものです。逆にお腹が空いていても、食べることよりも優先的に快な「モノ」がそこにあれば、「食べたくない」「お腹空いていない」と言うこともしばしばあります。そこに大人の秩序的理論は通用しません。そこに本能を優先させてしまうコントロールの未熟さがあるからなのです。とはいえ、食べたいものを食べるということは意欲的に食べることの第一優先事項になりますので、とても大切なことです。それをコントロールしてあげるのは周りの大人の役割となります。結果として、赤ちゃんの意欲を誘導、促進させてあげるのは大人がいかにその環境をコントロールできるか、ということなのです。

また、ここで大切なことはその意欲と連動して体がしっかり使えているかどうかを整えてあげることです。たとえば、食べたいものがあったとしても上手に手でつかむ器用さが無ければ手でつかむことやスプーンを扱うことができません。こうした器用さというのはデクステリティ(巧みさ)と言われております。ここでいうデクステリティは、手でつかむだけではなく、つかんだものを口に持っていくことができ、それを咀嚼・嚥下できることまでを含みます。そういった一連の動きは協調運動と言われ、いろいろな生活や遊びの中で、ゆっくり、そして繰り返し行うことによって培われていく行動能なのです。したがって、離乳食(だけではない食事全般に言えることですが)などの食事への姿勢としては、離乳食そのものだけにとらわれることなく日常生活を通して、遊びを通して継続的に見に付けた体の動きそのものが反映されると考えておくといいでしょう。そう考えると、よく歩いたりよく走ったり、細かいものをつかんだり挟んだり、虫の動きをマネしたり動物を追いかけたり…いろいろな動きが体を作っていくと考えらます。

【姿勢(開口)】

そして最後の三つ目としては姿勢から考えた場合の口腔機能、その中でも食べる時のお口の使い方についてです。

離乳食や食べ方、という観点を述べるうえでは、どうしてもよく噛みましょう!という結論に行きがちですが、ここではちょっと違います。どちらかというと、固いものを食べましょうというのは一旦どこかに置いておいて構いません。大切なことはしっかり口を開けることです。

長い人類の歴史上においてはある程度噛みちぎる必要があったものが多かったり、調理されていないような食べ物を食べることが多かったりしたのも事実です。それが、たとえば数千年前の話であれば、火を起こして調理をすることである程度固い食べ物を柔らかくすることができましたが、その柔らかさといってもさほど知れていると思われます。ここは実際に誰も体験したり見たり聞いたりしていませんので、あくまで推測です。それが近年においては調理方法もさまざまになり、一方で調味料も多く普及することでいろいろな食べ方ができるようになりました。そう考えると、昔に比べて現代は柔らかい食べ物が多い時代と言えます。

しかしながら、だからといって固い食べ物を食べることが顎にとっていいことというわけでもありません。というのは、前提として赤ちゃんの頃から固い食べ物を食べていられる子というのは、それなりに体幹が強く体の骨格的な強靭さが遺伝的にも強い子がそうだからです。つまりすべての子どもが同じように同じ食べ物が食べられるというわけでもありません。一人ひとり違った骨格、体幹を持っているため、噛む力もその子の成長によってまちまちなのです。とはいえ、ある程度の噛む力というのはヒトとしてほぼ平均から逸脱することもそうそうありません。しかし、口を開ける機能というのは顎の関節の柔軟性が重要です。そしてさらに物を噛む能力というのは噛む力そのものよりも噛み行為における咀嚼リズムが大きく影響するものなのです。そこには単にパワーとしての噛む力というよりは、食べるための能力としての口を大きく開ける機能が必要なのです。

ということを前提での話になりますが、結局大切なのはいかにお口を開けられるか、ということです。お口の開け方というのは、食べ方としては意欲的な時に最も最大に開けて食べる行為をすることがほとんどです。あるいはそうしないと食べられない場合です。たとえば、大きなハンバーガーをほおばる時はどうでしょうか。大きなお口を開けてガブッとかぶりつきます。その時のお口の開け方は、赤ちゃんがおっぱいを哺乳するときのお口の開け方と同じような使い方です。ところが普段の生活の中でスプーンで食べたりお箸で食べたり、上品な食べ方の中でお口をいっぱいに開けることがあるでしょうか。それはマナーとして必要なことかもしれませんが、赤ちゃんの頃の特に離乳食から固形食に移行するような時期に必要なことではありません。場合によっては、お皿についた食べ物のタレなどをベロで舐める行為も、お口をしっかり開けてベロを出してペロペロ舐めることでお口の使い方を十二分に活用しなければできないことです。

また、ここでそういったお口の使い方を育むために必要なこととして大切なこととしては、体を支える力、赤ちゃんの頃でいえば、きちんと自座位ができること、おすわりで自分の体をしっかり支えることができるかどうかです。これができて初めて体の各パーツの連動性が制御できて、お口をしっかり開けるサポートができ、舌の動きをコントロールできるようになるからです。

【まとめ】

離乳食開始に向けて知っておいてほしい3つのポイント

  • 共食 食事の共遊 三項関係 食具の共有
  • 主体 デクステリティ 協調運動
  • 開口 口の開け方 自座位 開口 舌

【さいごに】

離乳食に限った話ではありませんが、子育てに正解は無いとよく言われます。それは確かに正解は無いでしょう。でも、大切なことは選んだ選択が正解かどうかではなく、その選択を正解にすべく保護者が努力することだったり、たとえ正解ではなかったとしてもそれを糧にして次の選択に活かす気持ちを持つことだったりします。こういったことを最近ではレジリエンスとも言われます。

ここでは情報のアップデートされたことも述べましたし、何か気づきを得られた方もいるかもしれません。ここに出した3つのポイントが、必ずしも赤ちゃんの顎の発育にプラスになることはないかもしれませんが、おそらくマイナスになることは無いと信じて発信してみようと思っています。なお、先に述べましたが、赤ちゃんは一人ひとり発達も成長も違いますので、個別に対応が必要なところもあります。それについては実際に医院に来ていただいてご相談いただければと思います。

<参考>

子どもと食: 食育を超える 食のはじまり(シンボル化された3項関係)根ヶ山光一 編 2013 ぼっちな食卓-限界家族と「個」の風景 岩村暢子 2023 デクステリティ巧みさとその発達 ニコライAベルンシュタイン 2003

<文責>ひかり歯科医院 院長 益子正範