【はじめに】
当院では一般歯科診療のひとつとしてむし歯治療をすることがあります。それらの中には、小さいむし歯、大きいむし歯、予防的治療、欠損補綴(入れ歯など)治療などいくつかの種類があります。

特に臨床の中で聞かれる質問の中で、ある程度の大きさのむし歯治療で詰め物をするときに「銀歯」であることの是非を聞かれることがありますので、今回その点についてまとめてみました。
一般的には小さなむし歯の場合は、ほとんどがプラスチックの詰め物(コンポジットレジン)で充填されて終わることが多いです。一方、ある程度の大きさの場合、型取りをして模型におこしてから詰め物をお口の外(技工部門)で製作されることがあります。
代表的な質問としては、この場合に
・銀歯にすると体に良くないんでしょう?
・銀歯より白い歯の方がよく持つんでしょう?
といったことを聞かれることがあります。

結論を先に言うと、決してそんなことはありません。体にいいか悪いかというのは人それぞれの耐性などの影響があり、確かにある程度は人体に有害なものは含まれることはありますが多くの研究の結果、害が与えられない程度のものとして検証された結果、治療用のものとして使われているという背景があります。また、白い歯の方が長く持つかどうかも、感染性歯質がしっかり取り除かれたかどうか、装着がしっかりできたかどうかなど、いわゆる術式そのものに影響を受ける因子が多いものです。ということは材料によるものよりも歯科医師の技術だったりその後のケアの仕方に大きく影響を受けるものと言えます。
ここでは、それぞれ白い歯のメリット、銀歯のメリット、そして白い歯のデメリット、銀歯のデメリットを解説しますので、それらを総合的に考えて患者さんみなさんそれぞれの持つ価値観にあわせて選択していただければ良いと思っています。
【方法】
先に、プラスチックの詰め物と銀歯の作り方の違いを説明します。
〇プラスチックの詰め物
・・・これは単純に削ったところをお口の中で直接充填しますので、作り方というよりも詰め方という説明になります。
①むし歯によって歯質が感染してしまい、脆弱になった部分を削るためにまずは麻酔をします。
②次に詰め物をする場合に余分な細菌感染を防ぐために歯面清掃を機械で行います。同時に歯肉付近についている歯石もきれいに落としておくことがありますので、こちらも機械を使ってきれいに清掃します。
③切削器具を使ってむし歯を除去するとともに、詰め物に適合する形にかたちを整えるよう「形成」という作業をします。(←ここで感染歯質をしっかり除去できるかどうかが予後に大きく影響します)
④お口の中でもとの歯の形を想定して透明なプラスチックの囲いや薄いアルミ箔のような囲いを使って形態を整えながらプラスチックを詰めていきます。
⑤光を当ててプラスチックを固める作業を行います。
⑥形を整えたり、研磨したりして仕上げます。
〇銀歯の作り方
・・・①~③はプラスチックの詰め物を同じ準備をします。
④アルギン酸(ドロドロの粘土のようなもの)という材料を使って型取りをします。この時、液状の寒天性の材料を合わせて使うことで、より精度の高い型取りを行います。状況に応じて噛み合わせとなる反対側の型取りや、噛み合わせそのものを記録するための型取りを行います。
⑤詰め物をするところに「わりと簡単に外せる」けど、「そうそう取れない」程度の仮の詰め物をしておきます。
⑥次回の診察で、完成した詰め物を装着します。
【メリットとデメリット】
〇プラスチックの特徴(メリットとデメリット)
<メリット>
・見た目が良い・・・白い歯だから
・接着性が良好(1)・・・化学結合しているから(ミクロでみると細かい粒子単位でがっつりくっついている)
・接着性が良好(2)・・・ある程度、温度変化による膨張収縮が起こりにくいから
<デメリット>
・くすみやすい・・・詰めたときの見た目は白いが、食べ物の着色による影響を受けやすいから
・割れやすい・・・必要最小限の切削によるため強度を保つための厚みが不足する場合があるから必要に応じて切削量が大きくなる、また、材料自体が割れやすいのはプラスチック自体硬度(*)が低いから
*硬度・・・物の固さ、例えば「ゴム」は硬度が高い、「ガラス」は硬度が低い、と表現される、力を加えても柔軟性があったり伸展性のあるものは壊れにくいため硬度が高いとされる、いわゆる「壊れにくさ」
〇セラミックの特徴 プラスチックの上位互換
<メリット>
・見た目が良い・・・白い歯だから
・接着性が良好・・・温度変化による膨張収縮が起こりにくいから
<デメリット>
・割れやすい・・・必要最小限の切削によるため強度を保つための厚みが不足する場合があるから必要に応じて切削量が大きくなる、また、材料自体が割れやすいのは材料自体の硬度(*)が低いからであるが、プラスチックほどではない
・材料にかかる費用が高い・・・保険が使えないから
〇銀歯の特徴(メリットとデメリット)
<メリット>
・割れにくい・・・必要最小限の切削であっても金属の強度により破折するリスクはかなり低い(*硬度が高い)から
・接着性がある程度良好・・・篏合重合しているから(一部接着しているものの、ミクロでは接着せず物理的な力でくっついている)
<デメリット>
・見た目が悪い・・・銀歯だから
・脱離することがある・・・ある程度、温度変化による膨張収縮が起こり、篏合しているところが分離するリスクがあるから
〇金歯(ゴールド)の特徴 銀歯の上位互換
<メリット>
・割れにくい・・・必要最小限の切削であっても金属の強度により破折するリスクはかなり低い(*硬度が高い)から
・接着性がある程度良好・・・篏合重合しているから(一部接着しているものの、ミクロでは接着せず物理的な力でくっついている)
・生体親和性が高い・・・金属自体に伸展性があるのでなじみやすく、金属アレルギーの心配がほぼ無いから
<デメリット>
・見た目が微妙・・・金だから
・材料にかかる費用が高い・・・相場により変動があるから(保険が使えない)
*硬度・・・物の固さ、例えば「ゴム」は硬度が高い、「ガラス」は硬度が低い、と表現される、力を加えても柔軟性があったり伸展性のあるものは壊れにくいため硬度が高いとされる、いわゆる「壊れにくさ」
【材料の選択について~体に悪いのは論点が別~】
以上のように、詰めたものが持つかどうか、詰めた後にむし歯になりやすいかどうか、については確かに材料の質に影響を受ける割合も少なからずありますが、実際のところは術者の技術的なところによるものが大きく影響します。
材料性質の違いはある程度あるかもしれませんが、基本はそもそもの生活ベースでむし歯リスクが高いか低いかが大切(食習慣とケア習慣)なのです。
とはいえ、実際に治療に臨んでいる方にとっては材料の強度や持ち具合、そして見た目、費用という部分が悩ましいこととは思います。大まかにまとめますと、以下のようなところが判断のポイントになるかと思います。
〇むし歯になっている部分(感染質部分)が、きちんと削除できているか(テクニカルエラーがないか)が大切
〇むし歯がきちんと除去できて、きちんと型取りできていて、適合性の良好な修復物があって、取れにくいように接着できている、という条件なら、「二次的な虫歯になりにくい:むし歯抵抗性」という意味では、材料はどんなものでもほとんど一緒。虫歯になるかどうかは基本的には生活習慣がベースとなるため。
〇術者側のテクニカルな部分と患者さん側のケアの部分が良好であれば、あとは見た目または切削量といった論点から材料を選択すると良い
最後に、体にいいか悪いかという点について追記しておきます。
よく、金属アレルギーの原因になるため体に金属を装着すること有害だという意見があります。これは確かにその通りです。金属アレルギーだけではなく、アレルギー全般に言えることですが、少量のアレルギー因子を摂取したからといってすぐに発症することはありません。アレルギーの発症のしくみについては、花粉症のたとえ話ですが、コップの水が溜まって溢れてしまうくらいキャパオーバーになったときに一気に症状が出現するという例えがよく使われます。金属アレルギーも同様に、1個2個の金属がお口の中にあること自体すぐに問題になることはほとんどありません。とはいえ、まれに少量の金属の重量を敏感に感じてしまう方や、溶出する微細金属イオンに反応する方もいます。人間ですので、環境依存の何らかの原因が生活に合わない、と感じる方がいるのと同じです。(例:水が合わない、など)
そのような方の場合は、確かにからだにとって悪いものと判断されてしまうのもやむをえません。しかし、一般的にはそのような方は稀なケースになりますので、大多数の方にとって有害であるとは言い切れません。
みなさん、一人ひとりが違う環境で生活をし、違う成育歴をお持ちですので、ライフスタイルや体の特性に適応した歯科材料を選択していただければ、良好な結果が得られることと信じています。
【さいごに】
保険であれ、保険外であれ、良し悪しはありません。銀歯はむし歯になりやすいと思ってしまうことがあるのは、金属への抵抗感や過去の歯科治療でマイナスイメージがあるからかもしれません。特に歯科治療歴が多い方にとっては治療回数が多い分だけに確率的に銀歯が外れたり二次的なむし歯になってしまう回数が多いからという一面もあります。そういった方の場合は、そもそもむし歯になるような生活ベースが隠れているかもしれません。(こちらも参照してください)
歯科治療に、修復するための材料は欠かせません。
治療に使う材料は、金属だから良くない、というわけではありません。
実際の治療に際しては、それぞれみなさんの考え方をお聞かせいただいた上で決めていただくよう相談させていただきたいと思います。