定期的・継続的にむしば進行止めの薬(サホライド®、ナノシール®)を塗っている方の保護者の方へ

【はじめに】
【むし歯の進行止めのお薬について】
【歯磨きは虫歯予防とはいえない?】
【進行止めのお薬を効果的にする方法】
【むし歯になってしまった場合の代表的な流れ】
【さいごに】

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【はじめに】
 近年では、むし歯の数が少なくなったという情報がインターネットや各種メディアでみられるようになりました。しかし、それでもむし歯は無くなったというわけではありません。たとえば、乳酸菌飲料やスポーツドリンクのメーカーさんの発信する情報としては、夜寝る前に砂糖入りの甘いものを摂取するよう発信したり、赤ちゃんのうちから甘いもの飲めますよといったうたい文句で砂糖入りの甘いものを摂取する習慣づけようとしたり、実は思わしくない情報も多く見られます。
 夜寝る前に甘いものをとったら血糖値が乱高下してしまい睡眠の質が低下してしまいます。また、赤ちゃんのうちから甘いものを覚えることにより遺伝子情報にインプットされて将来の生活習慣病を引き起こす可能性も示唆されています。メーカーさんも良かれと思って発信しているものなのだと思いたいところですが、実態として子どもの成長発育に悪影響を及ぼすものの方が大きいのではないかと思います。

【むし歯の進行止めのお薬について】
 このように、一般の方にとっては知らず知らずのうちに正しい情報を得られなかった場合、残念ながらむし歯になってしまう子もいます。
 当院では、3歳、4歳、あるいはそれ以上の年齢になっても治療に対してなかなか勇気が持てない子供さんにおいては「サホライド®」や「ナノシール®」といったむし歯の進行止めの薬を塗布して、なんとか進行を食い止めようとする取り組みをしています。そのために月に一度、お薬を塗りに定期的に通院していただく必要があります。
 とはいえ、お薬を塗るだけでむし歯の進行が食い止められるわけではありません。そもそもむし歯になってしまった原因を解決しなければ、月に一度程度では焼け石に水程度になってしまうでしょう。

<サホライド®、ナノシール®を塗布する上での注意点>
・むしば進行止めの薬(サホライド®)は歯が黒くなります
・ナノシール®はむし歯の進行止めの作用もありますが、サホライドとは効果が違い若干効き目が弱い傾向があります
・むし歯の進行止めとはいえ、完全にストップさせるものではありません
・むし歯の成り立ちであるそもそもの食生活習慣が変わらなければ効果はありません
・フッ素(フッ化物)と併用することでより効果的になります

サホライド®(企業ホームページから)

ナノシール®(企業ホームページから)

【歯磨きは虫歯予防とはいえない?】
 まず、虫歯の原因の多くは歯磨き不足による影響という考え方は古い考え方なのです。もちろん、ある程度の影響は与える因子であるのは事実です。しかし、現代の主流な考え方は、食生活習慣が与える影響がもっとも大切というものになっています。当院へ来院された方、子どもさんの保護者の方へは、必要に応じてですが、むし歯の原因はいわゆる「むし歯菌の感染」ではないことをお伝えしています。したがって、赤ちゃんの時に保護者の方からの口移しなどが原因という考え方も古い考え方になります。もちろん、残念ながらいまだに考え方をアップデートできていない情報があるのも事実です。
 食生活習慣を前提に考えると、おやつに限らず間食が多い、ジュースをだらだら飲んでいる、というような生活リズムにこそむし歯が発生する原因があるということです。虫歯菌と呼ばれるものは確かに存在しますが、普段は悪さをしない常在菌、つまり誰の口の中にも住んでいる菌なのです。それは人類史上ずっと共生関係にあるため、まったくもって排除するなんてことは不可能と言えます。そしてそこに、お口の中が清掃不良であることが重なれば、当然ながら彼らは口の中に入ってきた糖質(おやつやジュース類)を糧にして「酸」を発生させるのです。それが虫歯を発生させるプロセスになります。
 もちろん歯磨きはお口の中の常在菌全体量を減らす目的としては最適な方法です。それが虫歯予防に全くならないというわけでもありません。しかし、100%お口の中を除菌できるというのは不可能ですので、結局は人間の生活の中にある「現代食」、つまり、甘く、柔らかく、調理や加工された糖質を中心とした食事そのものをコントロールしなければならないのです。
 当然、コントロールするという意味においては、まったく食べないことをお勧めしているということではありません。一日に決められた時間帯だけ食べたり飲んだりしてもよいわけです。

【進行止めのお薬を効果的にする方法】
 子どもの乳歯は大人の永久歯とは構造が違います。大人の場合は、多少むし歯の進行があったとしても神経に達するまで構造上の厚みがあります。しかし、子どもの乳歯の場合は、穴が開いてしまうくらいのむし歯であった場合、すぐに神経まで達してしまうものなのです。したがって、よく大人の治療と同じように考えてしまうことがあるのですが、実態としては「削って詰める」という大人の治療に対して、「削って神経の治療をする」という割合が多くなってしまうものなのです。
 神経の治療をすることになってしまった場合、よく「大人の歯に影響しないのですか?」ということを聞かれます。結論を言えば、直ちに影響はしませんが、長期的には影響を及ぼす可能性もあります。
(詳しくは「子供の歯の神経を抜くことについて」を参照してください)

 また、虫歯になってしまった穴(齲窩といいます)には特徴的な構造があります。それは壺状のようになった形です。この場合、歯ブラシが齲窩全体に行きわたらず磨き残しや食べかすの残留がそのままになってしまう可能性があります。
 この対策として、虫歯の形態修正を行います。形態修正をすることによって、一見すると一瞬でむし歯が劇的に進行してしまったかのように見えて驚かれることもあるかと思います。実際はその正体を現しただけとなり、むしろ磨きやすくなったりお薬が塗りやすくなるというメリットが多くあります。
 もし、虫歯の穴がはっきり見えるようになり、清掃性がよくなってお薬もしっかり浸透できる状態になったら、今度は抗菌性セメントによる封鎖が効果的です。
 ここまでできるようになれば、近い将来しっかりとした治療を行うことも可能になるでしょう。

【むし歯になってしまった場合の代表的な流れ】
□ 歯医者さんの機械に慣れる練習(トレーニング)をします
□ 食生活の振り返りをします
□ 形態修正をします
□ 進行止めの薬を塗ります
□ 抗菌作用のあるセメントで封鎖します
□ 歯磨き指導・食生活の振り返りをします
□ 白いプラスチック材料を使った詰め物の治療をします
□ 定期検診の習慣づけ

【さいごに】
 かつて昭和のころは、むし歯予防といえば毎食後の歯磨きを1日3回磨きましょう!というものが基本でした。しかしその後、歯磨きだけでむし歯が減ったかと言えばそうとも言えないということが分かりました。むし歯予防が効果的だったのは、フッ化物(フッ素)を学校や家庭でうがいなどによる習慣的塗布をしていた地域の子供たちでした。それが平成になってだんだんわかってくると、フッ素を使おうという声が出てきた一方で、フッ素は体によくないという声もありました。その結果、フッ素を使うことは個人の判断にゆだねることになりました。
 令和になった現在、虫歯の原因はむし歯菌が存在すること自体にあることではない、ということが分かっています。虫歯菌を不良にさせる環境、つまり食生活の不規則さが大きな原因です。そしてフッ素は元素で言えば猛毒ですが、フッ化物として存在させたものはむし歯予防に効果があることも分かっています。とはいえ、食生活習慣による影響を受けなければ、そもそもフッ素を使う必要もない、ということも事実です。それを判断するのは保護者の方に一任される問題です。
 ここでは、残念ながらむし歯になってしまった子どもたちへの対応を書いていますが、歯医者さんでできることは限られています。削って詰めることは「修復」ではありますが、「治癒」ではありません。一度むし歯になった歯は元に戻ることは二度とありません。
 歯医者さんに通っているから大丈夫、歯磨きしているから大丈夫、ジュースを飲んでいないから大丈夫、ということで油断なさらないように気を付けてください。