舌小帯、上唇小帯について

【はじめに】
 まずはじめに、舌小帯、上唇小帯についてどういうものかを解説します。これは実際の画像などを見ていただければわかりやすいものですが、簡単に言えば、舌小帯とはベロの下にあるヒダ(帯)のことです。そして上唇小帯とは上唇の裏側(上の前歯の歯茎と唇のくっついている境目あたり)にあるヒダのことです。

<舌小帯の写真>

舌小帯(ベロの下のヒダ)がほぼ標準の場合(ヒダがピンと張っている)
舌小帯(ベロの下のヒダ)が短い場合(ヒダの部分に厚みがある)
舌小帯が短いとベロを出したときにハート型になる

<上唇小帯の写真>

上唇小帯の分類(小児歯科臨床から)

 舌小帯や上唇小帯は人間の組織的構造(器官)のひとつですから、もともと備わっているものと考えればそれ自体は何ら問題になることはありません。そもそも、これらは胎児期の頃に作られる人体器官の中で、組織同士の形成過程の中で発生、つまり作られていくものです。いわば、からだにとって必要な組織と言えます。
 それが、乳幼児検診、または就学前検診、学校検診などで指摘されたことがある、という方もいるかもしれません。ヒトの身体の形態はそれぞれ特徴(個性)があるもので、必ずしもそれらが問題になるわけではありません。しかし、それらが問題になる場合、指摘を受けてしまう場合があるのはなぜでしょうか?

【なぜ舌小帯・上唇小帯が問題視されるのか】

 学校検診などで舌小帯や上唇小帯の形態異常を指摘されるのは、まず、舌小帯の場合だと代表的なものとしては「舌の使い方」、つまり嚥下(飲み込み)や発音に影響が出てしまうからと言われています。そして、上唇小帯の場合は「前歯のすぐそばに存在するため、上の前歯の歯磨きに磨きにくさを与えるから」、または、「前歯の生え方に問題が起こる可能性があるから」、と言われています。
 このような理由から、学校検診では最近特に慎重にチェックされ、指摘されることが多くなってきました。

 当然ですが、これらは、特に成長期の子どもにとって、これから身体が作られる過程において好ましくない身体への影響が考えられるからこその指摘です。こうした指摘というのは、歯科が歯のことだけが専門ではないからこそチェックしなければならないことなのです。歯科は、口腔、つまりお口の形、お口の使い方、お口の成り立ちに関係する器官全てが対象です。それこそ小児歯科という分野は成長という分野までも担わなければなりませんから、お口の機能に関しても年齢に応じたチェックを求められているのです。

 では、検診などで指摘された場合、「じゃあどうしたらいいの?」と質問しても的確な答えは難しいかもしれません。なぜなら、受診の結果得られる回答としては、「人による」または「小帯の状態による」とされて経過観察しましょうと言われることがほとんどで、しかも歯科医師の裁量によってどのように診断されるかはバラバラだからです。
 たとえば、単純に形態異常を指摘されたから簡単に「切除しましょう」と一言で済んでしまう場合もありますし、機能的な問題から判断して「切除しないで様子を見ましょう」と診断する場合もあります。ここで、「切る」となるとちょっとドキッとしてしまうのではないでしょうか。

————————————-
 ここまではひとまず、なぜ問題視されるかについては
舌小帯の場合  →「ベロの使い方(発音や飲み込み)」
上唇小帯の場合 →「歯磨きの仕方」 or 「前歯の生え方」
 にそれぞれ問題が起こりそうだからなのか・・・、ということをイメージしていただければと思います。
————————————-

【一般的な対応の仕方】
 舌小帯や上唇小帯の問題が指摘された場合に、実際どう対応したらいいのか、ということを解説します。ただし、ここでは一旦上唇小帯のことは置いておきます。というのは、上唇小帯についてはその仕組みについては発生学や解剖学によって解説が必要であり、かといって対応としては歯磨きの仕方を実際の診療室で指導するのが一般的だからです。
 したがって、ここでは舌小帯について一般的な対応の仕方について焦点を当てて解説することにします。
 舌小帯への対応は、まずは大きく分けて次の二つに分けられます。
———————————-
①筋機能訓練
②外科的処置
———————————-

①一般的には、筋機能訓練という舌や唇の筋トレのようなものがオススメされることが多いです。ただ、そのやり方は奥深く、そのトレーニングのために診査が必要で、内容も細かく分けられています。もちろん、個人個人で程度に差がありますし、状態の深刻度も変わってきます。(参考:MFT.筋機能訓練療法

②舌小帯切除術、または上唇小帯切除術、という施術を行います。これらは麻酔をしてレーザーで必要な組織を切除することで形態を修正する外科手術になります(舌小帯切除術に関してはこちらを参照)。外科手術というと大げさかもしれませんが、多少出血を伴うものでありながら、外来で15分程度で完了する施術です。どちらかというと麻酔の準備のための時間を要する割合の方が多いくらいです。

【舌小帯・上唇小帯に共通して検討すべきこと】
 大切なことは、小帯が短かったり強直しているからと言ってそれが問題になるかどうかです。問題になるようであればある程度訓練することによって標準的なお口の機能が是正されることを目指すべきだと思いますし、しゃべり方や歯磨きのしにくさがさほど気にならないなど、まずそれらが問題にならないようであれば担当医とよく相談のうえ成長とともに経過観察していくということもありだと思います。
 子どもの成長には、身体の成長とともに機能的に環境適応していくという能力が備わっています。つまり、気になるような問題が表面化するかどうか、というのは、構造的な問題が子どもの成長とともに適応化してくれるかどうかにかかっているのです。

 難しい表現になりましたが、少し砕いて具体的に言うと、小帯が短い子でもそのままの形で発音や嚥下に問題なく成長する場合があるのです。それが適応化ということになります。

 たとえば、舌小帯が短いと指摘され、「舌小帯強直症」があるため切除した方がいいですよ、と説明された場合、すぐに舌小帯への処置が必要でしょうか?
 ここでも大切なことは、結果として舌小帯への処置が必要でない場合もあるということです。一方で、もちろん切除した方がいい場合もあります。きちんと状態の診査をし、成長とともにどう変化しているかの経時的変化を観察し、機能的問題があるかどうかを判断したうえで、最終的にどうすべきかを議論していくことが大切なのです。
 もし切除する必要があった場合には、先に筋機能訓練を行い、身体に舌の動かし方を覚えさせるようにした上で形態を変えるための切除術をするのです。その先には切除後に改めて舌の動かし方を維持させるためのリハビリ運動も続けなければなりません。したがって、切除してここで終わり、ということにはならないことも大切なことなのです。
(参考:子どもの滑舌(かつぜつ)、しゃべり方、気になりますか?-当院ブログより-
 

【大切なこと:構造に問題が起こる背景を知る】

 以上のように、舌小帯や上唇小帯に問題がある場合は、それぞれ対応の仕方としては一般的な考え方があります。しかしながら、そうした問題自体には、「成長」に対して問題のタネ(原因)があるというのも事実なのです。
 たとえば、舌小帯であれば、舌が付着、隣接している体の組織には下あごが存在しています。この下あごの成長による形態変化によって舌の存在位置が変わってくるのです。(これについては下あごの骨と舌の骨(舌骨と呼ばれるもの)、それと舌そのものの構造関係を説明しなければならないので省略します、すみません。)また、上唇小帯の場合も、上あごの成長の仕方によって変わります。上あごが”前に”成長している場合、唇と歯茎の距離が離れていくため小帯が気にならない程度になりますが、あごが”下に”成長している場合は、唇との距離がそこまで大きく離れないかむしろ膠着してしまうため小帯強直という状態になります。

上あごの発育の仕方の一例、右側が下に発育する場合 上唇小帯も影響を受ける

 こうした問題のタネ(原因)に対して、将来の問題意識がイメージできるようであれば小帯切除術という対症療法がありますから、そうした処置を検討したらいいと思います。
 一方で、将来的な問題を把握しながらも適応化の可能性を期待するかどうか、主治医との相談で想像できるようであれば、そのままの成長を待つということもありでしょう。
 もし、成長期に起こり得る「適応化」を期待したいのと、切除なんていうのも不安で我が子にさせたくないということであれば筋機能訓練などのトレーニングを行うことで、あわてずに少しでも何か身体に変化があることを期待してもよいでしょう。ただし、これらで本当に大切なのは、治療方針を選択するには明確な診査診断とその根拠を明らかにしておくことです。その上で、経過観察とするのか、筋トレにするのか、切除術するのか、を選択すると良いでしょう。

【方針の選択肢まとめ】
① 筋機能療法 → 手術(小帯切除術) → リハビリ(筋機能療法)
② 筋機能療法 → 経過観察(成長を待つ) → 筋機能療法(適応化を確認)
③ 経過観察(成長を待つ) → やっぱり方針変更 → ①へ
④ 経過観察(成長を待つ) → やっぱり方針変更 → ②へ

【まとめ】
・舌小帯、上唇小帯は構造的問題ではあるが機能的問題が原因でもあり結果でもある
・問題として考えるかどうかは因果関係と将来的予測がイメージできるかどうか、保護者がどう考えるかが大切
・答えに正解はないので、検診で指摘されてもまずはどうするか、どうしたいのか、人それぞれ個別の事情があるのでまずは相談

<参考>